定年する社員の再雇用を拒否する方法について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
定年後の再雇用とは
再雇用は継続雇用制度の一形態
就業規則、労働協約、労働契約において定年制(労働者が一定の年齢に達したときに雇用契約が当然に終了する制度)の定めが存在する場合、労働者が定年に達すれば雇用契約は終了します。
もっとも、高年齢者雇用安定法(以下、「高年法」といいます。)は、定年が60歳を下回らないことを義務づけつつ(8条)、65歳未満の定年の定めをしている事業主は、以下のいずれかの措置を講ずることを義務づけています(9条1頂)。
- 定年の引き上げ
- 社員が高年齢者が希望するときは、定年後も引き続き雇用する制度(継続雇用制度)の導入
- 定年の定めの廃止
そして、実務的には②継続雇用制度が導入される例が多いですが、平成24年改正高年法により、継続雇用制度に関して認められていた対象者限定制度は廃止され、事業主に対して、原則として希望者全員を継続雇用することが義務づけられました。
再雇用の拒否は原則できない
再雇用制度を導入している場合、原則として希望者全員を再雇用することが義務とされており、拒否することは原則できません。
ただし、以下の場合は、再雇用をしないことが許されます。
- 定年退職者が希望しない場合
- 定年退職者が希望するが、解雇事由・退職事由に該当する事情が存在するので拒否できる場合
- 定年退職者が希望するが、会社が提示する再雇用の労働条件で合意できない場合
本ページでは、②の解雇事由・退職事由に該当する事情が存在するので拒否できる場合について詳しく解説します。
①の定年退職者が希望しない場合や③定年退職者が希望するが、会社が提示する再雇用の労働条件で合意できない場合については、別のページにて解説します。
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再雇用を拒否した場合のリスク
再雇用を拒否したが、法律的に拒否が認められない場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
再雇用が成立してしまう
再雇用制度があり、定年退職者が希望するにもかかわらず、再雇用を拒否した場合、再雇用されたのと同様の雇用関係の存続が認められる場合があります(津田電気計器事件最高裁一小平24.11.29判決、学校法人Y学園事件_名古屋高判令2.1.23日(労経速2409)・名古屋地判令元・7・30(労経速2392)、学校法人尚美学園(大学専任教員B・再雇用拒否)事件_東京地判平28.11.30(労判1152.13)など)。
損害賠償をしなければならない
不法行為に基づく損害賠償請求が認められる場合もあり得ます(日本ニューホランド(再雇用拒否)事件_札幌高判平22.9.30労判1013.160、札幌地判平22.3.20労判1007-26 損害賠償額500万円、尾崎織マーク事件_京都地判平30.4.13労判1210-66 地域別最低賃金をベースに3年間定年後再雇用が継続されることを想定した損害賠償金約400万円)。
このような法的リスクがあることを理解した上で、適切な対応を取ることが望まれます。
定年後の再雇用を拒否できる場合
再雇用の拒否は解雇事由又は退職事由に該当する場合に限られる
継続雇用制度に基づき希望者全員を継続雇用することが高年法により原則として義務づけられていますが、例外的にこれを拒否できる場合はないのでしょうか。
結論から先に言いますと、再雇用を拒否できるのは、解雇事由や退職事由に該当し、再雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合に限られます。
つまり、解雇できる場合や休職期間満了で退職となるような場合に限り、再雇用を拒否することができます。
改正後高年法9条3項に基づき、平成24年11月に「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」が策定されています(平24.11. 9 厚労告560)。
この指針によれば、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる」ほか、「就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として、解雇や退職の規定とは別に、就業規則に定めることもできる」(労使協定でも可能)とされています。
もっとも、“解雇事由や退職事由とは異なる運営基準を設けることは、改正後高年法の趣旨を没却するおそれがあることに留意する”必要性が指摘されています。また、「継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められる」と考えられています。
したがって、再雇用による継続雇用制度が存在し、労働者が再雇用を希望した場合であっても、解雇事由や退職事由に該当し、再雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合は、使用者は再雇用契約を拒否することができると考えられます。
解雇事由又は退職事由について
病気・健康状態の悪化により業務に耐えられない場合
従業員が傷病によって雇用契約で予定された業務をできなくなった場合は,雇用契約上の債務不履行となります。
ただし、客観的に合理的な理由といえるためには、病気・健康状態の悪化によって長期間にわたり会社の業務を行えない場合に限られます。
また、会社に私傷病休職制度がある場合は、そちらの制度の適用をすることが必要となります。
参考記事
職務遂行能力がない場合(能力不足)又は勤務成績不良で就業に適さない場合
労働者は労働契約に基づき、賃金に見合った適正な労働を提供する義務を負っています。
それゆえ、能力不足や勤務成績不良は労働義務の不完全履行とされ、解雇理由となり得ます。
もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、当該労働契約において求められる職務遂行能力の内容・程度を検討した上で、職務達成度が著しく低く、職務遂行上の支障または使用者の業務遂行上の支障を発生させるなど、「雇用の継続を期待し難いほど重大な程度」に達していることを要します。
参考記事
協調性がなく、他の従業員と円滑に仕事をすることができない場合
労働者が他の労働者と協調して業務を行わない場合には、他と協調して円滑に労務を提供するという債務を履行していないこと(不完全履行=債務不履行=解雇理由)になり、解雇理由となり得ます。
もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、同僚とのトラブルが絶えず円滑に業務を遂行できなかったり、上司に反抗したり、あるいは唯我独尊的な言動により会社の信用を傷つけた場合で、注意指導にも従わないような場合に限られます。
参考記事
遅刻、早退、無断欠勤が多いなど出勤不良である場合
欠勤はもとより,就業規則等で定められた始業時間から終業時間までの一部について労務を提供しないことになる遅刻・早退・私用外出は,雇用契約上の義務違反(債務不履行)であり,普通解雇事由となりえます。
もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、欠勤・遅刻・私用外出を頻繁に繰り返し,合理的な理由を述べないばかりか,反省の態度がなく,上司が是正するように注意しても,これを改めないような場合に限られます。
参考記事
その他解雇事由又は退職事由
私生活で飲酒運転をした従業員に対していかなる懲戒処分(懲戒解雇)ができるか?
ブログやSNSによる会社批判・誹謗中傷を理由にいかなる懲戒処分ができるか
私用メール、Webサイト閲覧を理由にいかなる懲戒処分ができるか?
通勤手当等の不正受給(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?
宿泊費など経費の不正請求(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?
業務中の社有車での交通事故を起こした場合、いかなる懲戒処分ができるか?
社有車であおり運転をした従業員に対していかなる懲戒処分(解雇)ができるか?
借金・給与差押・自己破産(個人再生)をした社員に対しいかなる懲戒処分ができるか?
監督責任を果たさなかった上司に対していかなる懲戒処分ができるか
合意退職による解決
定年後再雇用の拒否は、退職という効果が問題となる為,紛争となるリスクが伴います。
また、定年後再雇用の拒否は、解雇事由又は退職事由に該当する場合に限られ、それらについて会社側に厳格な証明責任が課されており、証明できない場合は敗訴判決となる可能性が高くあります。
そこで,実務的には,明らかに解雇事由又は退職事由を証明できる場合ではない場合、定年を予定した社員に対して、退職勧奨により合意の上での退職を実現することも可能です。
和解金・解決金や上乗せ退職金は、ケースバイケースではありますが、退職時の月給の3~6ヶ月分程度を提示することが多いと思われます。
裁判に発展する可能性がある場合は、このような合意退職も検討に値すると考えます。
なお、退職勧奨に際しては,あくまでも労働者の自由な意思による退職の合意を得ることに配慮しなければなりません。労働者が明白に拒絶しているにもかかわらず執拗に退職を求める,労働者の人格を損ねるような言動を行うという態様は厳禁です。
退職勧奨の詳細はこちら
再雇用を拒否する進め方
全体の流れ
- 定年退職の通知及び再雇用の意向聴取
- 解雇事由又は退職事由に該当する場合に該当するか否かを確認
- ②で解雇事由又は退職事由に該当する場合は、再雇用拒否通知を送付
- ②で解雇事由又は退職事由に該当しない場合や該当するか微妙な場合は、退職勧奨を検討。
- 再雇用の拒否や退職勧奨に応じない場合は、再雇用条件を提示する(なお、退職勧奨に応じないことが明らかな場合は、先に再雇用条件を提示します)
- 再雇用の契約更新の際、雇止めの可否を検討
① 退職通知及び再雇用の希望聴取
定年退職日の3ヶ月前くらいに送付します。
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② 再雇用に関する回答書
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③ 再雇用の拒否通知
再雇用を拒否する就業規則の規程例
1 従業員の定年は、満60歳に達した日とし、60歳に達した日の属する月の末日を定年退職日として退職とする。
2 前項にかかわらず、定年に達した従業員が希望する場合は、最長65歳まで嘱託として継続雇用することがある。ただし、当該従業員について、解雇または退職に該当する事由があるときはこの限りではない。
再雇用拒否通知書
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④ 退職勧奨・退職合意書
安全に再雇用せずに雇用終了させる書式はこちら

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⑤ 再雇用条件の提示
再雇用の条件提示書
定年後の再雇用にあたり、定年前と同じ労働条件を維持することまで義務付けられているわけではありません。
企業側が合理的な労働条件(仕事内容、勤務場所、賃金)を提示したにもかかわらず、従業員がこれを拒否した場合は、再雇用契約は成立せず、継続雇用せずとも高齢法違反にはなりません。
雇用契約書兼労働条件通知書(再雇用)
有効に再雇用の条件を締結するための書式はこちら

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まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
ご参考になりましたら幸いです。
なお、当事務所では、弁護士顧問契約・社労士顧問契約のサービスを提供しております。再雇用問題についても、制度設計、就業規則・再雇用規程の作成及び運用、再雇用拒否の際のコンサルティングなどの各種サービスを提供し、トラブル回避はもちろん、定年後もやりがいをもって仕事をしてもうらためのサポートを行っております。
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