しかし、Yは弁護士を依頼して解雇の撤回を申し入れてきました。当社としては解雇の撤回に応ずることは出来ないため、交渉が決裂し、先般、Yより地位確認の民事訴訟を起こされました。先日、当社宛に口頭弁論期日呼び出し状兼答弁書催告書という書面が送達されました。このような場合,当社としては、どのように対応すればよいのでしょうか?そもそも訴訟とはどのような手続きなのでしょうか?
判決に至る過程で,解雇の有効性についても裁判所が一定の心証を形成しますので,この時点で,和解が成立し,抜本的な解決をなされることもあります。
他方で,判決がなされた場合,不服がある当事者は,高等裁判所へ控訴,最高裁へ上告をして争っていくことになります。
訴訟は判決に至るまでは早ければ半年から長ければ2年程度時間がかかることもある。
審理が進められ、裁判所の心証形成に基づいて、和解が成立することも多い。
1 訴訟手続の流れ
訴えの提起は、原告が「訴状」を裁判所に提出することにより開始されます。訴状には、請求の趣旨、請求の原因のほか、請求を理由づける具体的な事実や、被告が争うであろう事実、すなわち原告が証拠で証明しなければならないであろう事実に関連する重要な事実(重要な間接事実)及び証拠(証拠方法)をも記載し、重要な証拠を添付する必要があります。
提出された訴状は、方式等の審査を経たうえで第1回口頭弁論期日呼出状とともに被告に送られます。これに対し、被告は訴状に対する反論を「答弁書」としてまとめ、提出期限までに裁判所に提出しなければなりません。もし被告が第1回口頭弁論期日に出席せず、その期日までに答弁書も提出していなければ、原告の言い分を全て認めたものとみなされて、判決が下されてしまいます(いわゆる欠席判決。基本的に原告の言い分を全て認める内容の判決になります)。答弁書には、請求の趣旨や請求の原因などに対する答弁を記載し、訴状と同じく、重要な事実(重要な間接事実)及び証拠(証拠方法)をも記載し、重要な証拠を添付する必要があります。
口頭弁論期日では、当事者が訴状、答弁書、準備書面の陳述等によって主張を述べ、証人尋問等の証拠調べも行われます。また、口頭弁論における審理を充実させるため、争点及び証拠の整理をする期日(「準備的口頭弁論」、「弁論準備手続」、「書面による準備手続」及び「進行協議期日」)が口頭弁論期日外に設けられることがあります。
口頭弁論が終結すると判決が言い渡されます。言い渡された判決に不服のある当事者は、判決正本を受け取ってから2週間以内に控訴をすることができ、控訴がなければ判決はそのまま確定します。
なお、当事者双方は、訴訟手続のいかなる段階でも、自主的に、あるいは裁判官の勧告により、互いの主張を譲り合って和解を成立させ、それにより訴訟を終了させることができます。和解の内容が調書に記載されると、確定判決と同一の効力を有します。
2 労働訴訟には、一般の訴訟事件と比べ、どのような特色があるのですか?
労働裁判所は存在せず、通常裁判所が労働事件も取り扱いますが、東京や大阪などの大規模な地方裁判所には、労働事件の専門部が置かれています。
一般に、未成年者は訴訟能力(訴訟の当事者として自ら有効に訴訟行為をし、相手方や裁判所の訴訟行為を有効に受けることができる能力のこと)を欠いているため、通常は法定代理人(親権者である両親など)によって訴訟が行われますが、労基法において未成年者は独立して賃金を請求できると定められている(労基法59条)ことから、賃金請求訴訟では未成年者にも訴訟能力が認められています。また、未成年者が法定代理人の同意を得て労働契約を締結した場合は、その労働契約上の請求一般について訴訟能力が認められると解されています。
また、労働関係民事事件(第1審)の平均審理期間は、平成20年1~12月に終結した事件について12.3月とされ、同時期の通常民事事件(第1審)の平均審理期間が8.1月であるのと比べると、およそ1.5倍となっていて、その理由としては、ⅰ)立証の困難性、ⅱ)原告多数の事件の多さ、ⅲ)当事者間の対立の厳しさ、などが挙げられています(最高裁事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」)。
3 労働審判と訴訟とでは、どのような違いがあるのですか?
まず、迅速性の観点からみれば、労働審判では3回以内の期日で手続が終了し、これに要する期間が3か月程度とされており、訴訟に比べ圧倒的に優れているといえます。
しかし、例えば、労働者が職場復帰による解決を望み、金銭的な解決は一切受け入れられないとする一方、使用者が職場復帰は絶対に認められないと主張しているような、当事者間の対立が鋭く、労働審判が出されても当事者のいずれかが異議を出すことが確実視されるようなケースや、事案が複雑であり、労働審判法24条1項による手続終了が見込まれるケースでは、最初から訴訟を利用すべきであるといえるでしょう。
なお、労働審判に対して異議が出され、訴訟に移行する場合には、急遽、地位保全及び賃金仮払い仮処分命令申立てを行い、訴訟に備えることが多いですが、その際、解雇無効の判断が示された労働審判が出されていれば、それを当該仮処分申立ての疎明資料として利用できるというメリットがあります。
訴訟対応のポイント
①適時適切な対応
訴訟手続は,労働審判手続や仮処分手続と異なり,緊急性・迅速性という性質がありません。適時適切に双方の言い分や証拠が出され,裁判官による心証が形成されていきます。また,裁判官の心証に従って和解(話し合い)が試みられることになります。企業側も答弁書・準備書面と呼ばれる反論を記した書面と証拠を提出しなければなりませんが,会社としてはじっくり腰を据えて効果的な主張・立証を準備することになります。
②充実した反論・反証
有利な裁判所の心証を得るためには,充実した反論が記載された答弁書・準備書面,厳選された証拠の提出が不可欠です。また,企業側の証人(労働者の上司や人事担当者等)について予行演習を行い万全の準備を整える必要があります。
③適切な解決水準への方向付け
訴訟手続においても和解で解決がなされことが多くあります。裁判所は企業側に大幅な譲歩をさせた上で解決を図ろうとする傾向がありますので,企業側に不利にならないように適切な解決水準での解決を方向付ける必要があります。
訴訟手続の流れ
下記解説をご参照下さい。