しかし、Yは弁護士を依頼して解雇の撤回を申し入れてきました。当社としては解雇の撤回に応ずることは出来ないため、交渉が決裂し、先般、Yより地位確認の仮処分を起こされました。先日、当社宛に審尋期日呼び出し状という書面が送達されました。このような場合,当社としては、どのように対応すればよいのでしょうか?そもそも仮処分とはどのような手続きなのでしょうか?
「賃金仮払い仮処分」は,裁判所が,解雇が無効となる可能性が高く,かつ,このまま賃金が支払われなければ労働者の生活が困窮すると判断した場合,会社に対し,訴訟の結論が出るまでに,賃金を仮に支払うよう命ずる手続です。これにより,賃金の支払いを受け,当面の生活費を確保した上で,訴訟を闘うことができます。
また,ケースバイケースですが決定は3ヶ月~半年程度で出ることが多く,しかも,解雇の有効性について裁判所の見解が示されることにより,和解等により抜本的な解決が図られることもあります。
実際には、仮処分の判断を前提に和解などにより抜本的解決が図られることも多い
1 労働仮処分の手続の流れを教えてください
労働者が解雇(または雇い止め)を命じられた場合に、職場復帰にこだわらず金銭的な解決が可能であれば、労働審判を利用して早期に(原則3回以内の期日で終了します)会社から金銭を支払ってもらうのと引換えに退職するという内容の調停を成立させ、それで解決とする方法があります。それに対し、労働者が職場復帰にこだわるような場合は、地位確認、解雇無効確認等の訴訟を提起してくることが想定されます。
訴訟は非常に時間がかかるので、解雇された労働者は就職ができなければ生活に支障を来し、訴訟を続けられなくなってしまう可能性もあります。そこで認められているのが「仮処分」の制度です。裁判所が、解雇は無効である可能性が強いと判断すれば、会社に対して、(裁判所が定める期間内は)給料を支払い続けるよう命令してくれるので、労働者は給料をもらいながら当面の生活保障を確保したうえで、解雇の無効を争うことが可能となります。
何回か審尋を重ねて、主張が出尽くすと、裁判所から和解が勧められることが一般的です。 この段階ではある程度先が見えていますから、勝ち目がないと判断すれば、金銭解決について検討すべきでしょう。和解で解決できない場合は、裁判所が決定(仮処分命令、あるいは却下決定)を出します(決定は、長くとも申立てから2~3か月程度で出されます)。
2 労働仮処分には、どのような種類があるのですか?
代表的なものとして、ⅰ)(労働契約上の)地位保全の仮処分、ⅱ)賃金仮払いの仮処分、ⅲ)配転命令効力停止仮処分、ⅳ)退職強要差止め仮処分、などがあります。
(労働契約上の)地位保全の仮処分とは、復職を仮に認めるというものです。裁判所によっては、解雇無効が疎明されても、特別の事情がない限り、労働契約上の地位保全の仮処分については保全の必要性がないとして、認めようとしません。
次に、賃金仮払いの仮処分とは、判決が確定するまでの間(実際には、概ね1年間とされることが多いようです)、給料を確保するための制度です。裁判所から賃金仮処分の決定が出されたにもかかわらず、債務者(会社のこと)が支払いをしない場合は、債権者(労働者のこと)は、保全執行を申し立て、強制的に支払いを受けることが可能です。なお、労働者が資産を保有している、近親者の収入で生活をしている、正社員として再就職した、といった場合は、会社は仮払いを免れる可能性があります。
仮処分対応のポイント
① 短期決戦
仮処分手続は緊急性・迅速性という性質がありますので,比較的早期に双方の言い分や証拠が出され,裁判官による心証が形成されます。また,裁判官の心証に従って和解(話し合い)が試みられることになります。企業側は答弁書・準備書面と呼ばれる反論を記した書面と証拠を提出しなければなりません。もっとも,労働審判手続にように第1回期日において会社側の主張をある程度出し尽くす必要性は高くありませんので,準備期間は労働審判手続の場合に比べればゆとりがあります。会社としては効果的な主張・立証を準備することになります。
② 充実した反論・反証
有利な裁判所の心証を得るためには,充実した反論が記載された答弁書・準備書面,厳選された証拠の提出が不可欠です。また,企業側の証人(労働者の上司や人事担当者等)について予行演習を行い万全の準備を整える必要があります。
③ 適切な解決水準への方向付け
仮処分手続においても和解で解決がなされことが多くあります。裁判所は企業側に大幅な譲歩をさせた上で解決を図ろうとする傾向がありますので,企業側に不利にならないように適切な解決水準での解決を方向付ける必要があります。
仮処分手続の流れ
下記解説を参照してください。