このようなことでお困りの会社・社長も多いことでしょう。
そこで,今回は,会社・社長が知っておきたい,労働審判手続の流れについて,コンパクトに分かりやすく説明したいと思います。
※あくまでも手続の流れの一例であり、全ての労働審判手続期日が以下のように進行するものではありません。裁判所によって運用が異なることがあります。
- 1 労働者 弁護士へ相談・依頼
- 2 労働者 労働審判手続の申し立て準備
- 3 労働者 労働審判手続申立書の裁判所(労働審判委員会)への提出
- 4 裁判所 事件の受理及び第1回労働審判手続期日の指定
- 5 会社 第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書の受領
- 6 会社 弁護士に相談及び依頼(1週間以内)
- 7 会社 答弁書の作成・証拠書類の準備及び提出(3~4週間程度)
- 8 労働者 会社 社員(労働者)・会社:第1回労働審判手続期日に向けた準備(2~3週間)
- 9 裁判所 事前書面審理
- 10 第1回労働審判手続期日(2~3時間) 裁判所 労働者 会社
- 11 第2回労働審判手続期日(30分~1時間程度) 裁判所 労働者 会社
- 12 裁判所 調停不成立・労働審判
- 13 労働者 会社 労働審判に対する異議申し立て
- 14 労働審判の確定 裁判所 労働者 会社
- 15 まとめ
労働者 弁護士へ相談・依頼
会社・社長の対応に納得がいかない社員(労働者)は,まずは弁護士に法律相談に行きます。
弁護士より紛争についての解決の見込みや裁判手続の概要についてアドバイスや説明を受けます。
また,弁護士に依頼した場合の弁護士費用の説明も受けます。
弁護士に事件を依頼することになれば,委任契約書や訴訟委任状を取り交わします。
労働者 労働審判手続の申し立て準備
社員(労働者)は,弁護士と打合せ等を行い,申立てのための主張を整理し,証拠を収集及び整理します。
それに基づいて,弁護士は労働審判手続申立書を作成します。
労働者 労働審判手続申立書の裁判所(労働審判委員会)への提出
弁護士は,申立書ができ次第,管轄裁判所に提出します。
裁判所 事件の受理及び第1回労働審判手続期日の指定
事件が受理されると、裁判所は労働審判官(職業裁判官1名)、労働審判員2名(労働者側出身者1名,経営者側出身者1名)を指定し労働審判委員会を組織します。
そして,原則として、申立がなされた日から40日以内に、第1回労働審判手続期日が指定されます(労働審判規則13条)。
また,相手方である会社・社長に対して,第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書と一緒に申立書や証拠書類も送付されます。
会社 第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書の受領
会社・社長は第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書と一緒に申立書や証拠書類を受領します(労働審判規則15条)。
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会社必見!第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状が届いたら行うべき3つのこと
会社 弁護士に相談及び依頼(1週間以内)
会社・社長は,労働審判手続について弁護士に相談・依頼します。
出来るだけ速やかに労働法を専門として,労働審判手続について豊富な経験を有する弁護士に相談・依頼します。
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会社 答弁書の作成・証拠書類の準備及び提出(3~4週間程度)
裁判所(労働審判委員会)からは答弁書及び証拠書類の提出期限が定められています。そこで,弁護士と打ち合わせ等を行い,会社・社長に有利な主張の準備や主張を裏付ける証拠の収集・整理を行います。
弁護士は,会社・社長が準備した証拠に基づいて答弁書を作成します。
指定された期日までに答弁書や証拠書類を提出します。
裁判所(労働審判委員会)は会社・社長側の主張を答弁書から把握しますので,最低でも第1回労働審判手続期日の1週間前には裁判所に届くように提出する必要があります。
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労働者 会社 社員(労働者)・会社:第1回労働審判手続期日に向けた準備(2~3週間)
また,第1回労働審判手続期日における裁判所(労働審判委員会)からの質疑応答へ対応するため,打ち合わせ等を行います。
併せて,最終的な解決に向けた方針も決定します(訴訟を辞さない覚悟で徹底的に争うのかor条件次第では労働審判手続にて早期解決を目指すのか等)。
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裁判所 事前書面審理
社員(労働者)が提出した申立書・証拠書類と会社・社長側が提出した答弁書・証拠書類を裁判所(労働審判委員会)は事前に読み込んで確認します。
特に,申立書と答弁書は,常勤の職業裁判官ではない労働審判員2名の自宅等へ郵送され,労働審判員は申立書と答弁書を読むことで労働審判手続期日への準備をします。
裁判所によって運用が異なることがあります。また,裁判所によっては証拠書類も労働審判員の自宅へ郵送されることがあります。
第1回労働審判手続期日(2~3時間) 裁判所 労働者 会社
① 事前評議
当日の開始時刻前に,労働審判官(裁判官)と労働審判員で事前に評議(打ち合わせ等)をします。
② 労働審判廷への入廷
定刻になると,労働審判廷へ社員(労働者)・その代理人及び会社関係者・その代理人が案内されます。
労働審判廷は,テレビの法廷ドラマのような法廷ではなく、1つの楕円形のテーブルに関係者一同が会する形で行われることが多いです。期日は、原則として、非公開です(労働審判法16条)。
③ 導入説明
まず,労働審判官(裁判官)より自己紹介や労働審判手続の簡単な説明が行われます。また,当事者双方より提出された書面の確認が行われます(5分程度)。
④ 審尋(1時間~2時間)
労働審判官(裁判官)や労働審判員から当事者双方に随時質問がなされます。
申立書や答弁書・証拠書類を事前に読み込み,疑問に思われる点について,質問が行われます。
質問への回答は,代理人ではなく,出頭した当事者が行うことを求められることがあります。それゆえ,8のとおり事前によく打ち合わせをしておく必要があります。
また,労働審判官の許可を得て,当事者間でも質問(反対尋問的な質問)のやりとりを行うことがあります。
⑤ 評議(10分程度)
一通り質疑応答が終わると労働審判委員会にて評議(打ち合わせ)を行います。その際,当事者は一旦労働審判廷から退廷して,別の待合室等で待つように指示されることが多いです。
労働審判委員会により事実認定や法的評価,調停や労働審判の方針などが協議されます。
⑥ 調停(1時間程度)
再び,当事者双方に対して,労働審判廷へ入廷するように案内され,労働審判委員会より調停手続に移ることが宣言されます。
その後,当事者は,労働審判廷に片方ずつ入れ替わりで労働審判廷に入り,調停が進められます(一方は、いったん退室し、別の場所で待機します。)。
労働審判委員会より法的な心証を伝えられ,調停に関する意向聴取,説得等が繰り返し行われます。
調停のやりとりで,第1回労働審判手続期日において当事者双方が合意すれば,手続は調停成立として,調停調書が作成され,終了します。
事実関係の審理や調停がまとまらない場合は,第2回労働審判手続期日が指定され,手続は続行となります。第2回期日は,当事者の予定を確認し,2週間~1ヶ月後に指定されることが多くあります。
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第2回労働審判手続期日(30分~1時間程度) 裁判所 労働者 会社
第2回労働審判手続期日以降は,事実関係の審理が持ち越されている場合は第1回同様に審尋が行われますが,通常は,調停のやりとりが中心になります。
また,所要時間についても,第1回労働審判手続期日に比べると短くなる傾向にあります。
調停のやりとりで,当事者双方が合意すれば,手続は調停成立として,調停調書が作成され,終了します。
調停がまとまらない場合は,裁判所(労働審判委員会)が調停案を示し,最終的に合意の意向を当事者双方に確認します。
当事者の一方又は双方が調停案に応じない場合は,裁判所が示した調停案と同内容の労働審判が言い渡されることもあります。
また,調停の見込みがある場合は,第3回労働審判手続期日が指定されることもあります。第3回についても第2回同様に2週間~1ヶ月程度先に指定されることが多いです。
裁判所 調停不成立・労働審判
第3回労働審判手続期日においても調停成立に至らない場合は,労働審判委員会は,労働審判を行います。
労働審判では,訴訟における判決と異なり,権利関係の確認,金銭の支払い等,守秘条項,その他個別労働紛争の解決のために相当と認める事項を柔軟に定めることができます。
労働審判委員会が事前に調停案を示している場合は,その調停案とほぼ同内容の労働審判が行われることが多いといえます。
労働審判は、殆どの場合は口頭で告知されます。
労働者 会社 労働審判に対する異議申し立て
労働審判に不服がある場合には、告知を受けてから2週間以内に異議申し立てをすることが出来ます(口頭で告知を受けた場合には、その告知を受けた時から起算し、審判書を受け取った時からではありません。労働審判法21条1項,労働審判規則31条1項)。
適法な異議申し立てがあった場合には,労働審判は効力を失い(労働審判に基づく強制執行もできなくなります),労働審判手続における請求は、その労働審判申立があったときに、労働審判事件が係属した地方裁判所に対し、訴えの提起があったものとみなされます(労働審判法21条3項、22条1項)。
そして,手続は,(訴え提起等の手続を経ずに)当然に訴訟手続に移行していくことになります。
なお,訴えの提起があったものとみなされた場合、労働審判手続の申立書等は訴状とみなされます(労働審判法22条3項、労働審判規則32条)。ただし,その他の記録は訴訟に引き継がれないため、当事者は改めて訴訟において主張書面や証拠書類を提出する必要があります。
労働審判の確定 裁判所 労働者 会社
これに対して,告知を受けてから2週間以内に異議申し立てがなされない場合は,労働審判は確定します。
確定した労働審判に基づいて強制執行などを行うことができます(労働審判法21条4項)。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は,労働審判手続の流れについて説明をさせて頂きました。
全体の流れを意識することで,事前に何を準備・検討するべきか,どの程度のスケジュール感をもって対応するべきかがおわかり頂けたかと思います。
第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状を受け取り,どのように対応するべきかが分からない会社・社長の参考になれば幸いです。