こんなことでお悩みの会社・社長もいらっしゃるでしょう。そこで,今回は,第1回労働審判手続期日を会社側が変更できるのかについて分かりやすく説明します。
1 第1回労働審判手続期日はどのように指定されるのか?
まず,そもそも第1回労働審判手続期日はどのように指定されるのかについて説明します。
社員(労働者)が労働審判手続を申し立てると,それを受理した裁判所は,申立がなされた日から原則として40日以内に、第1回労働審判手続期日を指定します(労働審判規則13条)。
ただ,裁判所の事件の混み具合や申立書に補正をする必要がある場合等には,40日よりも長くなることがあります。
具体的には,担当する裁判所書記官が,申立人である社員(労働者)の代理人弁護士に対し期日調整の連絡をして,社員(労働者)本人も出頭可能であることを確認した上で,第1回労働審判手続期日の日時を決めます。
この段階では,もちろん会社・社長側の都合は一切配慮されません。
そして,第1回労働審判手続期日が決まった後,裁判所は会社・社長に対して第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書を送付します。
この書面により,会社・社長側は第1回労働審判手続期日を初めて知ることになりま。
ですので,多忙な会社・社長にとって業務上の都合により期日に出頭することが出来ないことは十分にありえることだと思います。
2 第1回労働審判手続期日の変更は認められるか?
2.1 結論
まず,結論から言えば,労働審判手続を行う裁判所の運用によって対応は異なりますが,一般論としては,第1回労働審判手続期日の変更は認められないことが多いといえます。
ただし,実際には,第1回労働審判手続期日にどうしても会社・社長側が都合をつけることが出来ない場合には,裁判所は柔軟な対応をしてくれることも多いと言えます。
つまり,会社・社長側が,どうしても第1回労働審判手続期日に出頭できない場合に,いわゆる欠席裁判のような不利な結論を出すことはないことが多いといえます。
2.2 法的な根拠及び裁判所の基本的スタンス
ます、法律では,労働審判手続において,期日の変更は顕著な事由がある場合には許されることになっています(労働審判法29条,非訟事件手続法10条,民事訴訟法93条3項,民事訴訟規則36条,37条)。
しかし,労働審判手続において期日の変更を行う場合は,当事者双方に加えて労働審判員2名との間で日程を調整することが必要であるため,他の手続に比べて調整が困難な場合が多いといえます。
また,それにより審理の遅延を招くことになり手続の迅速性を本質とした労働審判手続の趣旨にも反することになります。
それゆえ,第1回労働審判手続期日の変更については,上記法律等の規定にかかわらず,厳格な運用をするというのが裁判所の基本的なスタンスです。
ただ,裁判所は,会社・社長側が欠席のまま,第1回労働審判手続期日を進行して結論を出すようなことは基本的にはしないことが多いといえます。
なぜなら,仮に会社・社長側が欠席のまま裁判所(労働審判委員会)が社員(労働者)の主張をそのまま前提として労働審判を言い渡したとしても,会社・社長側が納得しない可能性が高く,結局,会社・社長側が異議申し立て(労働審判法21条1項)をすることにより労働審判の効力が失われ(同条3項),意味が無くなるからです。このような事態は,社員(労働者)も求めていないともいえます。
2.3 裁判所の実際の運用状況
では,各裁判所でどのような運用を行っているのでしょうか?
① 東京地方裁判所
期日の変更は,当事者間で調整をしたとしても原則としては認めない運用です。
例外として,期日指定1週間以内又は労働審判員の選任前であれば場合によって認めているとのことです。
期日変更の必要性が高いか,大幅な遅延を招かない程度の日に変更の期日が指定できる場合であれば許すこともあるそうです。
また,最終的に期日直前であっても変更等が許されている場合もあるそうです。変更の許否を労働審判官,労働審判員の方で調整するという例外的な運用もしているそうです。※1 平成22年当時の運用状況
または,審判員指定前の段階では,申立人の意向や具体的な変更理由によっては申し出を認めることもあるが,審判員指定後は認めない運用とのことです。※2 平成24年当時の運用状況
東京地裁労働部における対応が多い筆者の経験として,上記運用は現在(令和4年4月)においても特に変更はないものと思われます。
② 大阪地方裁判所
第1回労働審判手続期日の変更は原則として認めない運用です。
ただし,会社・社長側(相手方)が欠席した第1回労働審判手続期日において,申立人から聴取した答弁書の認否・反論については改めて書面で提出させるなどして,相手方の手続保障に欠けることがないように配慮し,第2回労働審判手続期日において,より充実した審理を行えるようにしているとのことです。※3
つまり,一応会社・社長側(相手方)欠席で第1回労働審判手続期日を行うものの,申立人からの事情聴取に留め,実質的な第1回を第2回労働審判手続期日において行うという趣旨であると思われます(もちろん,第2回労働審判手続期日は,会社・社長側の予定も聞いた上で調整して決められると思われます。)。
③ 横浜地方裁判所
第1回労働審判手続期日の変更は原則として認めない運用であるが,例外的に,以下の場合等は期日変更を認める運用をしているとのことです。※4
・ 会社側代理人が変更し難い期日の重複等のため指定期日が差し支える場合
・ 会社・社長側からの委任が遅れて準備が出来ていない場合
3 第1回労働審判手続期日の変更の手続きについて
以上のとおり,第1回労働審判手続期日は原則として変更は認められませんが,裁判所ごとの柔軟な運用によって例外的に認められることもあります。
その場合,「期日変更申立書」を裁判所(労働審判委員会)に速やかに提出します(労働審判法29条,非訟事件手続法10条,民事訴訟法93条3項,民事訴訟規則36条,37条)。
4 まとめ
いかがでしょうか?
今回は第1回労働審判手続期日を会社が変更することができるのかについて説明をしました。
- 第1回労働審判手続期日は会社の都合は考慮されずに決定される
- 第1回労働審判手続期日に会社・社長側の都合で出席できないこともありえる
- 第1回労働審判手続期日の変更は認められないことが多いが,実際上は,柔軟な対応が行われている。
- ただし,裁判所(労働審判委員会)ごとに運用が異なるので,必ず弁護士に相談した上で手続をとってもらうようにしてもらいたい。
ご参考にされば幸いです。
※1 判例タイムズNO1315「労働審判制度に関する協議会第7回」(P7)
※2 LIBRA vol.12 No.11 2012/11「東京地裁書記官に訊く-労働部編-」(P10)
※3 判例タイムズNO1381「大阪地裁労働事件における現況と課題」(P34)
※4 判例タイムズNO1364「労働審判事件における審理の実情と課題」(P11~12)