欠勤控除

賞与の欠勤控除はできるか?

社長
当社では,賞与査定に際して,遅刻・早退はもとより,欠勤についても理由を問わずにマイナス査定の対象としています。ところが,労働組合が,交通機関の遅れによる遅刻は不可抗力であり査定に含めるべきではないとか,労災による休業や労働組合のストライキを欠勤扱いとすることは違法ではないかと言ってきています。どのように考えるべきでしょうか。
弁護士吉村雄二郎
不可抗力による遅刻・欠勤,労災による休業,または,ストライキによる休業等正当な理由があっても,この問の会杜の業績向上に寄与していない以上,賞与の査定において欠勤として扱うことも認められます。
一般的には,賞与を支給するか否か,幾ら支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられているので,賞与の算定にあたり,欠勤した日に応じて賞与から控除することは,問題はない
不可抗力による遅刻・欠勤,労災による休業,または,ストライキによる休業等正当な理由があっても,この問の会杜の業績向上に寄与していない以上,賞与の査定において欠勤として扱うか否か,幾ら支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている。それゆえ、賞与の算定にあたり,欠勤した日に応じて賞与から控除することは,問題はない

1 賞与と欠勤控除

賞与も,労働の対償として使用者より支払われる以上,賃金の一種と解されています。

もっとも,毎月支給される賃金とは異なり,勤務時間で把握される勤務に対する直接的な対価ではありません。そのため,賞与の査定において,欠勤日数に応じて,賞与から控除するか否かは,賞与の支給基準,支給条件等を労使間でどのように規定しているかによります。

一般的には,就業規則において,夏季と冬季(年末)との支給時期と「会社の業績等を勘案して定める。」旨が記載されています(以下,本文ではこのような記載がなされている企業を前提に説明します。)。

この場合,支給するか否か,幾ら支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられていますので,賞与の算定にあたり,欠勤した日に応じて賞与から控除することは,問題はないといえます

2 不可抗力による遅刻・欠勤と欠勤控除

賞与の査定において,欠勤控除する場合,労働者の責めによらない交通事故,交通ストや天災等により出勤できないような不可抗力の場合にも,労働者の自己都合による「欠勤」と同じ扱いをすることは認められるのかが問題となります。

結論としては,不可抗力ではあっても,遅刻・欠勤した分については,控除の対象とすることにも合理性があり,認められると考えられます。

使用者にも労働者にも責任のない不可抗力により,労務の提供ができなかった場合に,その負担は,どちらが負うかが問題となります。

この点は,民法536条1項が危険負担の原理として「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない。」と規定していることから,このようなケースでは,その負担は,「債務者」であり,労務提供の債務を負担している労働者が負うことになっています。

なお,多くの会社では,不可抗力による遅刻等の場合には,「月例賃金の支給」に際しては「有給」として扱っていることが多いようです。しかし,だからといって,賞与の査定においても「有給」扱いにしなければならない訳ではありません。賞与は月例賃金と異なり,使用者の査定により支給の有無・額を定めることが許されますので,月例賃金で「有給」として出勤同様に扱っていたとしても,賞与の査定において「欠勤」として扱うことも認められます。

3 労災による休業と賞与の欠勤控除

業務上災害の場合には,年次有給休暇の出勤率の算定にあたっては,出勤したものとみなされますが(労基法39条7項),賞与等の取り扱いについて「出勤」として取り扱うことまでは求められていません

したがって,賞与の査定にあたっては,業務上の災害による休業であっても,この期間中を「欠勤」と同一視して欠勤控除することも認められます。

4 ストライキによる休務と賞与の査定

ストライキは,争議行為の一態様として,労働者が団結して労務の提供を停止するものです。

そのため,当然のことながら,ストライキ中は労務の提供がないことから,月例賃金については,ノーワーク・ノーペイの原則により,賃金請求権は発生しないこととなります。そこで,賞与の査定にあたっても「欠勤」として扱い,欠勤控除することは問題ないかが問題となります。

結論的には,賞与の算定においても不就労分を「欠勤」として扱うことは許されます

裁判例でも,賞与算定期間中のストライキによる不就労日を欠勤として支給額から控除したことが問題とされた事案で,判決は,賞与協定の「欠勤控除条項中の『欠勤』の用語はストライキによる不就労の場合を含む」としています(東洋オーチス・エレベーター事件・最高裁第3小法廷昭48.12.18判決,最高裁判所裁判集民事110号715頁)。

なお,ストライキについて月間賃金からのカットを受ける以上,二重の不利益を課されるもので不当労働行為にあたる,あるいは,「欠勤」とは,労務提供義務を負うにもかかわらず,労務提供をしなかった場合を指すのであって,ストライキにより就労しない場合は,就労の義務から適法に免脱されるのであり,「欠勤」にはあたらない等の見解があります。

しかしながら,ストライキであっても,通常の欠勤であっても,労務の提供が行われていないという点では,まったく同じです。ノーワーク・ノーペイの原則からすれば,後払い的賃金も発生しておらず,また,その間,会社の業績の向上に寄与していません。そのため,ストライキによる不就労も「欠勤」として扱い,欠勤控除するのも合理性が認められるものと考えられます。

とくに,月例賃金については,労務不提供の時間分については,賃金カットしなければ逆に不当労働行為となる以上,賞与において「欠勤」として控除することも問題ないと考えます。すなわち,労組法7条3号は,使用者が「労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること」は不当労働行為と定め禁止しており,また,行政通達でも「労働者が争議行為に参加して労務の提供をなさなかったときは,労務の提供のなかった限りにおいて賃金を差し引かずに,これを支給するときは,不当労働行為となるものと解する。」(昭27.8.29労収3548号)としています。

この理からすれば,賞与の算定において不就労分を「欠勤」として扱うことにも合理性が認められると考えます。

対応方法

1 事実の確認

以下の事実を確認する必要があります。

□ 雇用契約上の賞与規定

2 証拠の収集・確認

以下の証拠を収集・確認する必要があります。

□ 雇用契約書
□ 就業規則・賃金規程

3 労働者への説明

欠勤しているにもかかわらず,賞与の算定に異議を唱えている社員がいる場合は,就業規則等を示して説明を行います。

参考裁判例

東洋オーチス・エレベーター事件

最高裁第3小法廷昭48.12.18判決,最高裁判所裁判集民事110号715頁

賞与協定の欠勤控除条項中の「欠勤」の用語は,ストライキによる不就労の場合を含み,この条項に該当する場合には,その限りにおいて賞与債権自体が発生しないとする原審の判断は,原判決挙示の証拠に照らして正当として是認でき,欠勤控除条項にしたがい,ストライキによる不就労の日数に応じて賞与からの控除をすることが労働組合法7条1号に違反するものではないとした事例

 

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