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地震による業績悪化と賃金カット
1 社員の賃金カット
地震不況により,業績の大幅な落ち込みが当面続くと想定される状況では,企業があらゆる努力を尽くしてもなお,資金繰りその他の面で厳しい状況にいたることが考えられます。
その場合の一方策として,賃金カットをすることも考えられます。
しかし,賃金カットは,使用者が一方的に自由になしうるものではなく,従業員の合意がある場合(労働契約法8条)か合意がない場合は就業規則(賃金規定)の変更手続(同法10条)によることが必要です。
また,賃金カットは従業員の生活にダイレクトに影響を与えますので,法的には、最終手段の一つと考えるべきです。
すなわち、賃金カットや整理解雇を行う前に、以下のような方法を尽くしておく必要があります。
- 広告費・交際費等の経費削減
- 役員報酬の削減 ※①
- 残業規制 ※②
- 従業員の昇給停止や賞与の減額・不支給 ※②
- 労働時間短縮や一時帰休(休業)※②
参考 「【2024年】地震で休業する場合,賃金・休業手当を支払う必要があるか?」 - 配転・出向・転籍による余剰人員吸収
- 非正規社員(有期・派遣・業務委託)との間の労働契約の解消 ※③
- 希望退職者の募集 ※②
※① 無報酬にする必要はない。最低限度の生活が賄える金額は残してよい。
※② 業務量が減少している場合に限る。業務量が変わらない場合は必須ではない。
※③ 正社員の削減に先行することが普通だが、非正規を残して正社員を先に切る場合もありえる。
しかし,経費削減や役員報酬の削減以外の措置は,これらを常に行わなければ整理解雇が許されない訳ではありません。
整理解雇による人員削減を優先すべき場合もありますので,専門家に相談の上,慎重に行ってください。
2 社員の合意による労働条件の変更
まず、労働契約法8条は「労働者及び使用者は,その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と定め,賃金といった労働条件に関し,労働者の合意があれば変更することができる旨を規定しています。
ただ,この点については,以下の2点に注意する必要があります。
(1) 就業規則(賃金規程)も同時に変更する
合意内容が,就業規則(賃金規程)を下回るようであれば,当該合意が無効とされてしまう可能性があるため(労働契約法12条)、合意に合わせて就業規則(賃金規程)を変更する必要があります(最判平成15 ・12・18労働判例866号14頁)。
(2) 客観的合理的理由があること
賃金カットの同意書・合意書にサインを貰えばよいという訳ではありません。
不利益な労働条件の変更の合意をする場合は、合意するだけの事情が必要であるとされています 1。
したがって,不利益変更を行う必要性がある中で,少なくとも,十分な説明を尽くしたうえで,従業員が任意に合意できる状況の中で合意書を取り交わすことが肝要です。
一方的に合意書にサインさせるだけでは無効となるリスクが高まります。
3 就業規則(賃金規定)の変更
賃金カットについて社員全員から同意が得られない場合であっても、就業規則の変更によって賃金カットを行うことができます。
ただし、厳しいハードルがありますので、簡単ではありません。
労働契約法10条は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と定めています。
その他、賃金カットの方法については
地震原因で休業・時短営業する場合,パートのシフトを減らしてよいか?
1 雇用契約上,勤務日数や勤務時間の定めがない場合
パート・アルバイト社員は,雇用契約上,毎月・毎週の勤務日数や勤務時間を具体的に定めず,毎月作成する翌月分の勤務シフトにより具体的に勤務日数や勤務時間が決められることがよくあります。
この場合,既に確定したシフトについては,雇用契約上の勤務日・勤務時間となりますので,労働者の同意を得ずに,使用者が一方的に削減することはできません。確定したシフトを休ませる場合は,不可抗力による休業では無い限り,休業手当(労基法26条)を支払う必要があります。
これに対して,将来の未確定のシフトについては,使用者にて削減することも可能です。シフトが削減されれば,その分,時給や日給が発生しないことになりますが,所定労働日・所定労働時間を休ませる「休業」には該当しませんので,休業手当の支払いは不要です。
2 雇用契約上,勤務日数や勤務時間の定めがある場合
雇用契約上,勤務日数や勤務時間の定めがある場合(例えば,「週3日・1回4時間勤務」,「最低週4日勤務」などの定めがある場合),それらは雇用契約上の勤務日・勤務時間となりますので,労働者の同意を得ずに,使用者が一方的に削減することはできません。休ませる場合は,不可抗力による休業では無い限り,休業手当(労基法26条)を支払う必要があります。
まとめ
以上お分かり頂けましたでしょうか。
ご参考になれば幸いです。
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