地震と休業手当

【2024年】地震で休業する場合,賃金・休業手当を支払う必要があるか?

社長
当社は北陸地方で事業を展開している企業です。2024年(令和6年)1月の能登半島地震により、会社施設に支障が生じたり,公共交通機関が運休となる為,休業としました。このように地震で会社が休業となる場合,会社は社員に必ず休業手当を支払わなければならないのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
地震や津波、地震に伴う火災などによって,会社の事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた等に理由で不可抗力により休業せざるを得ない場合は,賃金はもちろん,労基法26条の休業手当も支払う必要はありません。これに対し,不可抗力な事情が無いものの会社の判断で休業とする場合は,労基法26条の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要があります。接客業などの場合で地震により客足が遠のき大幅に売上が減少することが見込まれる為,会社の判断で休業とする場合などは,さらに賃金100%を支払わなければならない場合があります。震災特例の雇用調整助成金も活用して事業継続を図りましょう。
地震により不可抗力により休業する場合は,休業手当や賃金を支払う必要はない。
地震により不可抗力な事情が無い場合は,労基法26条の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要がある。

労働者が休業した場合であっても、それが会社に原因がある場合は、民法536条2項により賃金は原則として100%発生する。
法律の建前を踏まえながらも経営者の判断により法律以上に手厚い支援をすることも検討したい。
雇用調整助成金の能登震災特例(2024年1月11日付)があるので活用したい。

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全体像(フローチャート)

まずは、全体像をフローチャートにしましたのでご確認ください。

フローチャート_地震と休業手当の要否v2

弁護士吉村雄二郎
法的に賃金や休業手当の支払が不要であっても、雇用調整助成金の震災特例を活用して休業手当を支払うことを検討してください。財務的に可能であれば賃金100%を支給する場合もあります。困ったときはお互い様。労使で一緒に前を向いて再建する方法を考えましょう。

地震で社員が欠勤(不就労)の場合

交通機関が麻痺して出社不能な場合

地震で公共交通機関が運休となる等の理由で社員が会社に出社して勤務をできない場合,欠勤となります。

また、テレワーク可能な勤務であっても、自宅倒壊や避難などにより勤務をできない場合も欠勤となります。

欠勤で不就労となる場合は、ノーワークノーペイの原則により賃金は支払う必要はありません

つまり,休んだ日(時間)分の給料は支払わなくてよいのが原則となります。

休業手当の支払いも不要です。

交通機関は支障があるものの出社は不可能ではない場合

交通機関が地震の影響で遅延するなど支障が生じている場合であっても、出社が不可能ではない場合もあります。

通勤経路を迂回する、出勤時間をずらすなどして、何とか出勤が可能な場合もあるでしょう。

その場合に、社員の判断で出社をしない(見あわせる)場合は、欠勤となりますので、ノーワークノーペイの原則により賃金は発生しません休業手当の支払いも不要です。

また、テレワーク可能な勤務であっても、自宅の補修、家族の病院への付き添いなどを理由に勤務しない場合も同様です。

有給休暇を取得する場合は賃金は発生する

上記の2つの社員が欠勤する場合であっても、社員が有給休暇を取得する場合は、当然のことなら賃金支払は必要となります。

有給を使って出勤を見あわせること、実務的にはこの選択肢も多いかと思われます。

地震で休業命令を出す場合

もっとも、会社の判断で休業を命ずる場合もあります。

この場合の賃金・休業手当の要否は、「不可抗力の有無」によって場合分けされます。

地震による不可抗力で休業とする場合

地震の影響により休業を命ずることが不可抗力である場合は、賃金・休業手当の支払いは不要となります。

ただ、不可抗力と認められるのは、極めて限定的な場合に限られます。例えば、

  • 地震に伴う災害(地震・津波・火災など)によって,会社の事業場の施設・設備が直接的な被害を受け社員を休業させる場合
  • 地震に伴う災害(地震・津波・火災など)によって,事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていないが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となった場合(別の調達先や代替品もない場合)
  • 地震に伴う災害(地震・津波・火災など)によって,停電・断水で業務を行うことが出来ない場合

などです。

テレワークにより業務が継続可能な場合も不可抗力に該当しますか?
テレワークが可能な場合は不可抗力に該当しない場合もあります。

業務の性質から客観的にテレワークや配置転換(安全な勤務場所での勤務)による業務遂行が可能な場合は「不可抗力」とは認められない場合があります。テレワークや配置転換が可能かは業務の性質から客観的に定まります。テレワークは可能であるが、情報セキュリティ上の都合でテレワークをさせられない場合は会社側の事情による休業となる可能性があります(その場合は、休業手当や賃金の支払いが必要となります。)。

事業所所在地において、市町村長により緊急避難指示が出されたので避難する場合は、不可抗力に該当するか?
不可抗力に該当すると考えられます。

緊急避難指示は、災害対策基本法第60条に基づき市町村長が発出するものです。緊急避難指示には、罰則などの法的な強制力はありませんが、「避難指示は、災害が発生するおそれが高い状況、即ち災害リスクのある区域等の居住者等が危険な場所から避難するべき状況において、市町村長から必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し発令される」ものであり、客観的に事業を継続できない危険が迫っているということができ、不可抗力により事業が継続できない状況ということができるからです。

地震による不可抗力で休業する場合(賃金・休業手当の支払義務がない場合)であっても、雇用調整助成金を利用することを前提に休業手当を支給する場合があります。

地震による不可抗力がない場合

不可抗力な状況ではないものの、会社の判断で休業を命じた場合は,賃金・休業手当の支払いが必要となります。

例えば、不可抗力といえるほど致命的な問題は発生していないものの、

  • 地震・津波・火災の影響で営業をすることが困難である場合などに、会社の判断で休業を命ずる場合
  • 接客業などの場合に,地震により客足が遠のき大幅に売上が減少することが見込まれる為,会社の判断で休業とする場合
  • 震災による直接の被害を受けなかったが、能登半島の工場から部品等が調達できなくなった。ただし、 別の工場から代替品を調達できる場合に、会社の判断で休業する場合

などです。

雇用調整助成金を利用した対応

地震による不可抗力で休業する場合(賃金・休業手当の支払義務がない場合)であっても、雇用調整助成金を利用することを前提に休業手当を支給する場合があります。

厚生労働省では、令和6年能登半島地震に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない事業主に対して、通常より要件を緩和するなどの雇用調整助成金の特例措置を講じています。通常時の雇用調整助成金より利用しやすくなっていますので、是非活用をご検討ください。

参考リンク

令和6年能登半島地震に伴う雇用調整助成金の特例を実施します

会社の実務的な対応

以上を踏まえ,ありえる企業の実務上の対応の選択肢は次のとおりです。

(パターン1)休業手当をなるべく支払わない方法

地震により不可抗力により休業する場合

この場合は、休業命令を出します。

不可抗力の場合ですので、休業手当・賃金の支払いは不要です。

地震による休業が不可抗力とはいえない場合

この場合は、会社の判断による休業命令はせずに、社員には以下の事項を速やかに伝達します。

  1. 会社は休業しないが,各自の判断で安全に配慮して出社・勤務の有無や出社・勤務の方法を判断すること
  2. 欠勤する場合は事前に会社へ報告し、欠勤時の業務の取り扱いについて協議すること。欠勤の場合は,無給であること。
  3. 地震・津波・火災等により欠勤したとしても,懲戒等人事上のペナルティーはないこと
  4. 有給休暇を消化は自由であり、各人の判断で取得すること。

これによって,労働者が自らの判断で欠勤した場合は,休業手当や賃金は発生しません。

有給休暇を消化した場合は賃金を支払います。

こうすることで,休業に伴う会社のコストを最小化し,出社の伴う安全性に一定の配慮しつつ,地震でも出社する社員と欠勤する社員の不公平感を無くすことが出来ます。

もっとも、労働者の判断で出勤・欠勤・有給消化をしますが、事前に報告・相談してもらい、顧客対応や引き継ぎを行うなど、業務に支障がでないように調整する必要があります。

(パターン2)労働者に手厚い保護をする場合

地震により休業が不可抗力な状況となるか否かを問わず、会社の判断で休業を命じます。

社員には以下の事項を速やかに伝達します。

  1. 休業を命ずるので、出社には及ばないこと
  2. 休業期間中は賃金は支払うこと(又は休業手当を支払うこと)

こうすることで,社員は地震による出社の危険に晒されず,出社の判断に迷うこともなく,経済的にも手当が保障され安心して休業することが可能です。

社員にとっては最も理想的な対応方法といえます。

ただ,このような選択肢を採用することが出来るのは一部の大企業や経済的なゆとりのある企業に限られるでしょう。全ての企業,特に中小企業でこのような制度をとらなければならない訳ではありません。

また、雇用調整助成金を活用して休業手当を支給することも是非検討してください。

参考リンク

令和6年能登半島地震に伴う雇用調整助成金の特例を実施します

パターン1の方法も法的には採ることが可能ですので,企業の実情に応じて経営者にて判断をしてください。

(NGパターン)法的に誤った対応

(1) まず,地震により休業が不可抗力な状況では無いが,会社の判断による休業をした場合であっても,賃金や休業手当を支払わないこと

この場合,最低でも労基法26条の休業手当の支払いは必要となりますので,法律違反となります。

(2) また,地震により休業が不可抗力な状況では無いが,会社の判断による休業をした場合であっても,労働者には会社の判断で一方的に有給を消化させること

労基法26条の休業手当の支払いは必要となるのに,一方的に有給を消化させることは,労基法26条違反となります。

まとめ

以上お分かり頂けましたでしょうか。

ご参考になれば幸いです。

当事務所では、能登半島地震で被災された企業・自営業者様に向けてZoom・電話による無料法律相談を受け付けております。詳細は下記をご参照ください。

被災地域の企業・自営業者様のみならず、働く皆様全てに対する支援の気持ちは持ちづけたいと存じます。

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