当社の社内住宅資金貸付規程では,社員が退職する際,社内貸付の残額を退職金から控除することとしており,金銭消費貸借契約書にもその旨を記載してあります。社員が予定より早めに退職するときは,控除金額が退職金の半額以上になってしまうこともあります。このような退職金からの控除は法的に問題となるのでしょうか。また,退職金についても,労働者代表との間で賃金控除協定を締結しておく必要があるのでしょうか。
労基法24条1項では,所得税や社会保険料等法令に基づくものについて控除を認めており,また,それ以外のもの,例えば労働組合費,親睦会費,社宅費用等について,過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と協定を結んだ場合,その協定で定める項目は控除することを認めています。住宅貸付金の月々の返済についても,賃金からの控除によって返済するのであれば,この控除協定が必要ですし,退職時の貸付金の残額を退職金から控除するためにも,その旨の控除協定が結ばれていることが必要です。労働基準法において,控除額の限度は特に設けられていません。
ところが,民事執行法152条は,毎月の賃金や賞与については,その額の4分の3に相当する部分(賃金額が33万円を超えるときは33万円)の差押えを禁じ(第1項),退職金については,その額の4分の3に相当する部分の差押えを禁じています(第2項)。さらに,民法第510条は,「債権が差押えを禁じたものであるときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。」と規定しています。すなわち,民事執行法によって差押えを禁じられた賃金部分については,その債務者(使用者)は,労働者に対し相殺をすることができないという意味です。「相殺」とは,債務者がその債権者に対して自分もまた同種の債権を有する場合に,その債権と債務とを対等額において消滅させる意思表示をいいます(民法505条,506条)。相手方の承諾の有無に関係なく一方的な意思表示により行うことができますので,両当事者の合意(契約,予約)によって相殺すること(差し引き計算をすること)は,民法でいう「相殺」にはあたりません。民法510条が禁止している相殺は,会社の一方的な意思表示によって行う相殺であって,当事者間の契約によって行う相殺は禁止していません。したがって,退職金債権について当事者の契約による相殺が4分の1を超えてなされても民法510条の禁止するところではありません。
以上のとおり,控除協定があり,かつ,当事者の契約によって相殺がなされる場合は,控除額の上限はなく,支払額の4分の1を超えても差し支えありません。この場合,控除協定には,「退職金支払いの際,住宅貸付金の返済金の残額がある場合にはこれを控除する」といった趣旨の規定を設けておく必要があります。
ところが,民事執行法152条は,毎月の賃金や賞与については,その額の4分の3に相当する部分(賃金額が33万円を超えるときは33万円)の差押えを禁じ(第1項),退職金については,その額の4分の3に相当する部分の差押えを禁じています(第2項)。さらに,民法第510条は,「債権が差押えを禁じたものであるときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。」と規定しています。すなわち,民事執行法によって差押えを禁じられた賃金部分については,その債務者(使用者)は,労働者に対し相殺をすることができないという意味です。「相殺」とは,債務者がその債権者に対して自分もまた同種の債権を有する場合に,その債権と債務とを対等額において消滅させる意思表示をいいます(民法505条,506条)。相手方の承諾の有無に関係なく一方的な意思表示により行うことができますので,両当事者の合意(契約,予約)によって相殺すること(差し引き計算をすること)は,民法でいう「相殺」にはあたりません。民法510条が禁止している相殺は,会社の一方的な意思表示によって行う相殺であって,当事者間の契約によって行う相殺は禁止していません。したがって,退職金債権について当事者の契約による相殺が4分の1を超えてなされても民法510条の禁止するところではありません。
以上のとおり,控除協定があり,かつ,当事者の契約によって相殺がなされる場合は,控除額の上限はなく,支払額の4分の1を超えても差し支えありません。この場合,控除協定には,「退職金支払いの際,住宅貸付金の返済金の残額がある場合にはこれを控除する」といった趣旨の規定を設けておく必要があります。