1.通勤災害の要件
本件では、労災保険法7条1項3号に規定される「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(以下、通勤災害)に該当するかが問題となっています。
通勤災害と認められるためには、
②災害と通勤との間に相当因果関係があること(通勤起因性)
が必要となります。
2.①通勤遂行性
まず「通勤」とは、労働者が、就業に関し、住居と就業場所との間の往復等を、「合理的な経路及び方法により行う」ことをいい、業務の性質を有するものを除くものと定義されています(労災保険法7条2項)。
ご相談のケースは、いずれも会社の工場への通勤途中において負傷した場合を想定されていますので、「通勤」に該当することは明白です。よって、本件では②通勤起因性が認められることが前提となります。
3.②通勤起因性
[1]相当因果関係の判断
通勤災害が認められるためには、通勤と負傷等の災害との間に相当因果関係があること、すなわち、負傷等の災害が、通勤に内在または随伴する危険の現実化として発生することが必要となります。
ある災害が通勤と因果関係があると認められるためには、「当該通勤がなければ当該災害を被らなかったであろう」という条件関係の存在と併せて、通勤が災害の相対的に有力な原因となっていること(相当因果関係)が必要です。
相対的に有力な原因かどうかは、経験法則に照らし当該通勤には当該災害を発生させる危険があったと認められるかどうか、換言すれば、当該災害が当該通勤に内在する危険の現実化したものと認められるかどうかによって判断されます。
[2]相当因果関係が認められる場合
通勤途中の交通事故としては、駅の階段での転倒や落下物による負傷などが典型例ですが、以下のような具体例も参考になります。
●集中豪雨のために早退した帰宅途中で、姉を迎えに立ち寄った、姉の経営する美容院内で土砂崩れにより死亡した場合(通勤起因性肯定 昭50. 1.17 基収3680)
●出勤の途中、野犬に噛まれて負傷した場合(通勤起因性肯定 昭53. 5.30 基収1172)。
[3]相当因果関係が否定される場合
通勤途中の災害であったとしても、次のような場合は相当因果関係が否定されます。
①労働者の身体的素因によって傷病が生じ、通勤が当該傷病の単なる「機会原因」でしかなかったような場合
②労働者の積極的な私的行為または恣意(しい)的行為によって災害が生じた場合(自殺、労働者自らが喧嘩(けんか)を仕掛けて負傷した場合等)
③労働者の通勤行為の逸脱ないし離脱行為によって災害が生じた場合
④通勤途上で第三者による犯罪の被害を受けたが、通勤がその犯罪にとって単なる機会を提供したにすぎない場合
4.ご質問のケースについて
[1]野生動物による負傷の場合
工場への通勤に利用されている公道において野生のイノシシや猿などが出没する状況にあるとのことですので、通勤途中でこうした野生動物に襲われて負傷することは、「当該通勤がなければ当該災害を被らなかったであろう」という条件関係があり、さらには、通勤が災害の相対的に有力な原因になるといえます。
また、自動車での通勤途中に交通事故でケガをするということも同様です。
したがって、上記ケースにおいては通勤起因性が認められ、通勤災害に該当します。
[2]他人が飼育するペットによる負傷の場合
通勤途中に、他人が飼育している大型犬等のペットに噛まれてケガをする場合についても、通勤起因性が認められると考えられます。
大型犬等がペットとして一般家庭で飼育され、公道等にいることは、特段異例なことではありません。通勤途中の公道でペットの大型犬に噛まれて負傷した場合も、「当該通勤がなければ当該災害を被らなかったであろう」という条件関係があり、さらには、通勤が災害の相対的に有力な原因となるといえるからです。
なお、他人が飼育・管理する動物により負傷した場合、負傷した労働者は飼い主に対して損害賠償請求権を取得する場合があります(民法709条、718条等)。その場合「第三者行為災害」(労災保険法第12条の4)に該当し、労災保険給付に関する請求書とともに、「第三者行為災害届」を被災者の所属する事業場を管轄する労働基準監督署へ提出する必要がある点、ご留意ください。