選択的週休3日制の導入方法について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
選択的週休3日制とは
選択的週休3日制の意味
選択的週休3日制とは、従業員が希望する場合に、1週間当たりの休みを3日取得できる制度です。
我が国の多くの企業では週休2日制が取られています。
これは、労働基準法が労働時間について、1週40時間、1日8時間に制限していることから、1日の労働時間を8時間とした場合、週の労働日を5日以下にしなければ法律違反となってしまうことに原因があります。つまり、労基法上の義務に従うために、週休2日制をとっているのです(なお、労基法上の休日は1週1日(または4週に4日)以上(労基法35条)とされています。)。
これに対して、選択的週休3日制は、法律による義務はありません。採用するか否かは個々の企業の人事戦略に基づいて自由に決定することができます。
導入の効果を見極めて、自社の人事戦略にマッチする場合は採用を検討し、そうでなければ採用は見送って様子見でも全く構いません。
選択的週休3日制のメリット・デメリット
従業員にとってのメリット・デメリット
メリット
週休3日により、プライベートのまとまった時間を確保できます。
その時間を、育児や介護、ボランティア、副業・兼業のほか、治療のための通院、趣味などに使うことができます。これにより、従業員はワーク・ライフ・バランスを確保しやすくなります。
また、休日の時間を、あらたな知識・スキルを習得するために学校に通う、リスキリングのために勉強をするなどの自己投資に費やすことにより、ワークフォース・トランスフォーメーション(自社の経営戦略に沿った従業員の変化対応力の向上)に資することにもなります。
デメリット
選択的週休3日制の制度設計によっては、週の労働時間減少に伴い賃金が減少する、または、週の労働時間や賃金は減少しないが、1日分休日を増やす分、他の平日の労働日の労働時間が長くなる、といったことが考えられます。
会社によっての選択的週休3日制
メリット
上記のとおり週休3日制は従業員のワーク・ライフ・バランスの向上を図ることができますので、特に育児や介護で週休2日制では勤務出来ないものの、週休3日であれば勤務可能な有能な人材の採用おいて他社との差別化を実現することになります。
また、週休3日制を機に、従業員がリスキリング、副業・兼業、様々な社会活動への参加することにより、能力・経験の蓄積と変化対応力の向上を実現することができれば、人材面で他社との差別化を図ることができます。
デメリット
週の労働時間は減少しないが1日の労働時間が長くなる場合、集中力低下やそれに伴う業務効率の低下、健康管理の面でリスクが増える可能性があります。
また、週休3日制を採用したことにより、それを選択しなかった従業員に業務をしわ寄せがいった場合、不公平感による従業員間の対立の発生、会社への不満の増大といった問題が発生する可能性があります。
選択的週休3日制の検討事項
組織単位か個人単位か
まず、週休3日制をどの程度の規模で導入するかが問題となります。すなわち、週休3日制を組織単位(全社または部署単位)で導入するのか、あくまで社員本人の選択に委ねて個人単位で樽入するのかという問題です。
業務効率や負荷の平準化、労務管理の容易さ等を考慮すると、会社の立場からは組織単位で導入するほうが何かと都合がよいことが多いです。他方で、働く側にとっては、自分の都合で自由に週休3日制を選択できるほうが好ましいといえます。
ワーク・ライフ・バランスが目的の場合
ワーク・ライフ・バランスが目的の場合には、組織単位、個人単位の両方があり得ます。
先に述べたとおり、組織単位としたほうが業務管理や労務管理の面で効率的ですが、「ワーク・ライフ・バランス」という趣旨に鑑みると、本人の選択に委ねる方式が適しています。
その際、対象社員の職務内容も考慮する必要があります。
集団での作業やタスクの相互依存性が高い仕事(例えば、工場のライン、建設現場など)では、組織単位での導入が適しています。個人の都合でバラバラに週休3日制を選択されると、業務が回らなくなるおそれがあるからです。
これに対して、ホワイトカラーの仕事など、それぞれの社員のタスク完結性が比較的高い仕事については、個人単位での選択制が成り立ちます。
ワークフォーストランスフォーメーションが目的の場合
ワークフォース・トランスフォーメーションが週休3日制導入の主たる目的である場合には、個人単位での適用とすべきでしょう。
十分な時間的余裕があれば誰もが学び直しや社外活動に精を出すようになるわけではありません。たとえ余りある時間があったとしても、学ばない人はやはり学ばないし、社外活動に関心がない人はそれでも何もしないのが実情です。あくまで本人の主体性を尊重し、自ら進んで何かに取り組みたいという人を後押しするような制度設計が望ましいといえます。従って、個人単位での運用が原則となるのです。
時短型かメリハリ型か
時短型
時短型とは、出勤日の所定労働時間を維持したまま週休日を2日から3日に増やすタイプの週休3日制をいいます。
この場合、休日が1日増えた分だけ労働時間が短縮されます。
例えば、完全週休2日制を採用し、1日8時間、1週40時間の所定労働時間であったものを1日の所定労働時間を8時
間のまま完全週休3日制にした場合、1週の労働時間は32時間(8時間X 4日)に短縮されます。
一般に「週休3日制」といった場合、このタイプをイメージすることが多いと思われます。労働時間が短くなるので、ワーク・ライフ・バランスの実現という観点から効果的です。
ただし、この場合、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、労働時間の削減に比例した賃金減額の検討が重要課題になり得ます。
メリハリ型
週の労働時間は維持した上で週3日を確保しつつ、休む日と働く日のメリハリをつけて、通常の労働日の所定労働時間を増大させる場合をメリハリ型といいます。
例えば、週40時間を維持したまま、週休日を2日から3日に増やす代わりに、1日の所定労働時間を10時間にする方法です。
ただし、そのままだと1日8時間の法定労働時間という労基法の定めをクリアできなくなるので、変形労働時間制を採用する必要があります。
労働日(図では月~木曜日)の労働時問が長くなるので、全体としての労働時間は短縮されないものの、完全オフの休日が週3日確保できる点は、ワーク・ライフ・バランスやワークフォーストランスフォーメーションの観点からは大きな意味があります。週休2日制ではできなかった、子育てや地域活動、社外活動への参加、学び直しなどの時間に充てることができるからです。
賃金制度・評価制度の検討
全体的な考え方
メリハリ型を選択し、労働時間の短縮を伴わない形で週休3日制を導入する場合には、労働時間に変わりはありませんので、賃金制度にも特段の変更を加える必要はありません。
これに対して、時短型の場合には、全体として所定労働時間が削減されます。それに伴いノーワーク・ノーペイの原則の観点から、賃金の減少を検討する必要があります。
以下、時短型の場合で、月給制を採用している前提で検討をします。
この点、週休3日制を導入する場合に給与減額を一切行わないまま週休日を増やす方針もあり得ます。
社員の立場からは、給料はそのままで労働時間が減りますので、非常に好ましいでしょう。
しかし、会社としては、
①大幅な生産性向上策とセットで週休3日制を樽入する場合はともかく、そうでない場合には、現行給与を維持すれば、実質的に給料増額することと同じになり、総額人件費が経営に与える影響を見極める必要があります。
②また、賃金の時間単価の上昇に伴い時間外・休日労働の割増賃金がアップすることにも注意が必要です。
週休3日制を個人の選択に委ねる形で導入する場合には、何らかの形で賃金を減額調整することが通常です。
週休3日制を選んだ社員と従来どおり週休2日制を維持した社員との間に不公平が生じてしまうからです。
基本給と諸手当の減額調整の方法
時短型を採用する場合、所定労働時間の減少に比例して基本給も削減し、賃金の時間単価を不変に保つことが原則的な考え方です。
例えば、上記時短型の図のケースでは、所定労働時間が従前の80%に削減されたのに比例して基本給も80%にする、仕事関係の諸手当(例:役職手当など)についても同様に比例減額することが基本となります。
これに対して、手当の支給目的と所定労働時間との関連性が薄い場合は不変とする考え方もあります。
例えば、役職者に仕事の業績責任を負わせ、それに対する対価として役職手当を支給している場合、仮に、所定労働時間が短くなったとしても従前どおりの業績責任を負わせるのであれば、役職手当は不変とする考え方もあります。
もっとも、役職手当が、役職者の業務量に着目して支払われている場合は、時短型の選択的週休3日制の場合で労働時間が減るのであれば、役職者の業務量も減少することになるので、それに比例して役職手当を減少させることにも十分合理性があるといえます。
また、そもそも労働時間との関述性が簿い諸手当(住宅手当、家族手当などの福利厚生的な手当)は、その趣旨に鑑み、変更しない考え方もあります。
もっとも、福利厚生的な手当も、フルタイム働くことの恩典として支払っていると考えるのであれば、労働時間に比例して賃金を減額することも合理性があるといえます。
従って、基本的には、所定労働時間の減少に比例して賃金全般についても減少させる、とすることができると考えられます。
賞与の減額調整の方法
賞与について、支給額を「基本給の〇カ月分」というように基本給をベースに決めている場合には、基本給の減額に比例して賞与も減額されることになります。
このように基本給ベースの決め方をしていない場合であっても、週休3日制で所定労働時間が短縮されれば、賞与の算定対象となる貢献度・成果も小さくなりますので、一定程度は賞与支給額を減額することが基本方針となります。
ただし、労働時間の長さと成果の大きさが必ずしも比例しない職務の場合は、例えば、賞与支給額のうち、業務に対する対価としての賞与支給額と成果・貢献度に応じた賞与支給額についてを分けた上で、後者の割合を拡大するとよいでしょう。これにより、週休3日制に移行してもなお従前(週休2日制の時)と同じレベルの成果を上げた場合には、賞与が減額されないようにします。
同時に、人事評価の賞与額反映ルールを見直し、能力評価や勤務態度評価よりも成果評価の比重を高めることも検討します。一般に能力評価や勤務態度評価の比重が高過ぎると、短い労働時間で頑張って大きな成果を上げたとしても、その成果が賞与支給額の決定に反映することが困難になるからです。
年俸制の場合
年俸制を採用し、前年度の目標達成度に応じて年間報酬を決めている場合には、設定する年次目標のレベルを従前と同じとすることを条件として、時短型週休3日制に移行してもなお、年俸額を不変とすることも可能です。
この場合、週休2日制の時と同レベルの成果を引き続き上げることができれば、年俸額も週休2日制の時と同水準を維持できます。
管理監督者など、もともと労働時間の規制を受けずに成果中心に評価や待遇を設定されている場合に、上記考え方が適合します。
これに対して、管理監督者ではなく、専門職などで裁量労働制の適用者に年俸制を適用している場合には、所定労働時間の短縮に伴い賃金の時間単価が引き上がる点に注意が必要です。これにより、深夜労働や休日労働を行った際の割増賃金額が上昇することになるからです。
また、管理監督者についても、深夜の割増賃金の支給対象となるので、同様に一定の影響はあります。
退職金について
基本給ベースで退職金を決めている企業では、基本給の減額に伴い退職金も減ることになります。
退職金については、報酬の後払い的性質、生活保障的性質もありますので、時短型週休3日制の導入により想定外に退職金の額が減少することになると、不利益変更の問題になります。
特に、退職時甚本給に勤続年数に応じた乗率を掛け合わせて退職金を算定している企業の場合には注意が必要です。
社員が思わぬ不利益を被ることがないよう、減額回避のための補正を行うなどの配慮が求められます。
これに対して、勤続年数や資格等級に応じてポイントを付与する仕組みを採用している場合には、こうした問題は発生しにくいといえます。
ただ、週休3日制適用者に対する付与ポイント数を変更するか維持するかは、検討の余地があります。上記のとおり基本給や諸手当と同様、所定労働時間の長さに比例させて減額することが合理的か否かという視点で検討が必要です。
人材活用のあり方の検討
職種限定、勤務地限定などのいわゆる限定正社員制度(「多様な正社員制度」などとも呼ばれる)を採用している企業において、通常の正社員と限定正社員で人材活用の仕組みを変える企業が少なくありません。
例えば、通常の正社員であれば昇進可能職位に上限はなく、配置転換も無制限に行われるが、限定正社員の場合は昇進は課長まで、配置転換も転居を伴う転勤は免除するなどというルールを設けるケースです。
時短型の週休3日制の選択者を限定正社貝の一類型(時間限定の正社員)とカテゴライズするのであれば、同様の考え方により、選択者の配置転換や昇進可能職位に何らかの制約を設けるという考え方もあり得ます。
配置転換について
選択的週休3日制は、ワーク・ライフ・バランスの目的で導入された場合、「週休3日制の選択者には転居を伴う配置転換を免除する」などの方策がなじむ場合が多いでしょう。
昇進について
昇進については、労働時間が減ったことにより制約を課すことに合理性があるか、慎重な見極めが必要です。
週休3日制の選択者であっても、限られた時間で成果を出せる優秀な人材であれば、昇進・昇格について限定を設けることに合理性がない場合もあるからです。
たとえ働く時間が短くても、期待どおりの成果が上がっているならば、昇進・昇格を行って、さらなる成果を挙げてもらった方が企業の利益に資するといえる場合もあるでしょう。そのような成果をあげることをできる人材を活用することこそが、求められていると言えます。
選択的週休3日制の導入方法
制度設計・規定の整備
上記検討事項に沿って制度設計を行います。その上で、制度を就業規則及び付属規程に落とし込みます。
制度説明・周知
「週休3日制になると休みが増えるので従業員にとってメリットがある」と認識されることが多いですが、多くの場合、時短型では賃金減額を伴いますし、報酬減を伴わないメリハリ型であっても休日が増える分平日の労働時間の長くなります。
ほとんどのケースにおいて、週休3日制は単純な労働条件の有利改定ではなく、休日増というメリットの半面、他の労働条件に何らかの影響(しわ寄せ)が生じるのです。
従って、十分な労使コミュニケーションを通じて、週休3日制の導入趣旨はもちろん、それによって労働条件がどのように変わるのか、社員に対して丁寧に説明しなければなりません。
個別同意の取得
社員の自己選択による個人単位の週休3日制を導入する場合、仮に週休3日制によって賃金減額や平日の労働時間の長時間化などの不利益があったとしても、本人の自由意志で選択する以上、労働条件の不利益変更にはなりません。
これに対して、社員の自己選択ではなく、会社の決定事項として週休3日制を導入する場合は慎重な対応が必要です。
特に、週休3日制を時短型で導入して賃金が減額される場合や、メリハリ型で平日の労働時間が長時間化する場合は、基本的に労働条件の不利益変更に該当しますので、社員の個別同意(労働契約法9条)を得る必要があると考えられます。
会社の立場からは、「働き方改革を断行し社員のワーク・ライフ・バランスを推し進めるため」などの大義名分があったとしても、労働時間よりも賃金を優先する社員にとっては、単なる労働条件の不利益変更となります。
メリハリ型の週休3日制の場合であっても、たとえ週休日が1日増えたとしても平日の所定労働時間が増えることにより身体的負担が増しますし、個人生活とのバランスが却って損なわれる場合もありえるからです(1日8時間を基本として、子供の送り迎えや家事を予定したり、その他個人的な予定を組んでいる場合も多くあります。)。
賃金や労働時間は労働条件の根幹であり、不利益変更に該当する場合は、労働組合が存在する企業では労使協議を経て制度を変更する必要があるが、労働組合が存在しない場合であっても、出来るだけ個別同意を得るように努め、個別同意が得られない場合であっても、制度改定の合理性(労働契約法10条)が確保されるよう慎重な制度構築と丁寧な社員コミュニケーションが欠かせません。
以下の点に照らして、労働条件の変更に合理性があれば、その内容を盛り込んだ就業規則の周知を条件として実施可能
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情
選択的週休3日制の規程例
メリハリ型
選択型週休3日制規程
時短型
選択型週休3日制規程
選択的週休3日制の導入については専門家へご相談を
以上、選択的週休3日制の導入方法について説明致しました。
選択的週休3日制の導入については、既存の就業規則等により定められた制度及び法令との整合性が不可欠となります。
高度な専門性が必要な作業となりますので、専門家へのご相談をお勧めします。
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