年次有給休暇を取得した場合の給料の計算方法について、社会保険料労務士が分かりやすく解説します。
年次有給休暇を取得した場合の給料の計算方法
年次有給休暇とは
年次有給休暇(労働基準法第39条)とは,毎年一定の日数の休暇を有給で保障することにより,労働者が休息や余暇を享受するためのまとまった時間を保障することを目的とする制度です。
年次有給休暇の基本的内容(年休の発生要件と日数など)は、労働基準法第39条において定められています。
概要としては、①6カ月間継続勤務し,②全労働日の8割以上出勤するという要件を満たしたときに労働者に対して毎年一定日数の有給休暇の請求権を付与しなければならないと定めています(1項)。また, この年次有給休暇は最初の6カ月以降の1年ごとに発生し, その付与日数は勤続年数に応じて増えていきます(2項)。
労基法39条のうち. 7項(時季指定義務)以外に違反した場合には, 6カ月以下の懲役又は3()万円以下の罰金に処すると規定されています(労基法119条1号)。また,本条7項に違反した場合には, 30万円以下の罰金に処すると規定されています(労基法120条1号)。
年次有給休暇を取得した場合の給料の計算方法
年次有給休暇を取得した日の給料の計算方法は、以下のいずれかとしなければなりません(労基法第39条9項)。
- 平均賃金
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 健康保険法による標準報酬日額
いずれにするかは、就業規則その他これに準ずるものにより定めることにより決まります(労基法39条9項)。
9 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
実務的には、②の「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」がほとんどあり、これが一番計算が楽なので最適であると考えます。
就業規則の規定例
第○条 年次有給休暇の賃金は、所定労働時間労働した場合の賃金を支払う。
賃金規程に、有給休暇の賃金について定めを置きます。上記は所定労働時間の通常賃金の場合の規定例です。
以下、①~③の方法について具体的に説明します。
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とは
「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」は、次の方法によって算定した金額です(労基則25条)。
- 時間給…その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額
- 日給…その金額
- 週給…その金額をその週の所定労働日数で除した金額
- 月給…その金額をその月の所定労働日数で除した金額
- 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金…(1)から(4)までに準じて算定した金額
- 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金…その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によって計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における1日平均所定労働時間数を乗じた金額
- 労働者の受ける賃金が①から⑥の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によってそれぞれ算定した金額の合計額
なお、日給者、月給者等につき、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合には、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、上記に定める計算をその都度行う必要はないものとされています(昭27.9.20基発675号)。
月給制の場合
正社員や契約社員などで月給制の場合は、「その金額をその月の所定労働日数で除した金額」となります。
もっと簡単に言いますと、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、上記に定める計算をその都度行う必要はありません(昭27.9.20基発675号)。
具体例
ある月の所定労働日数が22日、労働者の月次基本給が30万円で、1日有給を消化した場合であった場合
有給1日消化し、勤怠記録は21日分の出勤でも、22日出勤したものとして、月給30万円を支払います。
日給制の場合
日給制の場合は、その日給金額をそのまま払います。
もっと簡単に言いますと、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、計算をその都度行う必要はありません(昭27.9.20基発675号)。
賃金計算システムを使用している場合は、労働日を1日分加算する方法が一番簡単でしょう。
具体例
ある月の所定労働日数が22日、労働者の日給が1日1万円で、1日有給を消化した場合であった場合
有給1日消化し、勤怠記録は21日分の出勤でも、22日出勤したものとして、月で22万円を支払います。
時給制の場合
時給制の場合は「その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額」となります。
労働条件通知書や雇用契約書を確認し、1日の労働時間が固定的に決まっている場合は、時給✕決められた時間数で計算すれば足ります。
シフト制の場合は、有給を取得する前にシフトで日々の時間が決定され、これが所定労働時間になります。有給を取得する日に想定されていたシフトの時間を確認し、時給✕シフト表上の時間数で計算します。
シフトの時間数が多いほど、有給休暇の賃金は多くなります。
賃金計算システムを使用している場合は、有給を取得する日の1日分の労働時間を加算する方法が一番簡単でしょう。
具体例
ある月の所定労働時間数が120時間、労働者の時給が1300円で、シフト上、8時間勤務の日に1日有給を消化した場合
有給1日消化して、勤怠記録は1ヶ月112時間となっていても、120時間勤務したものとして、月で15万6000円を支払います。
歩合給の場合
出来高払制・その他請負制の場合とは、例えば歩合給制などの場合です。この場合は、以下の算出方法で計算します(労働基準法施行規則第25条)。
賃金算定期間とは、直近で出来高払制・その他の請負制によって支払われた賃金を算出した際に用いられた期間です。
具体例
例えば、1日の所定労働時間8時間、ある月の所定内労働時間168時間、残業時間32時間、労働者の月次基本給が30万円、発生した歩合給が10万円で、1日有給を消化した場合であった場合
基本給部分は、通常の出勤をしたものとして取り扱い、有給1日消化しても、いつも通りの月給30万円を支払います。
そして、歩合給部分についても、有給休暇の賃金を支払う必要があります。
100,000円 ÷(168時間+32時間)×8時間 = 4,000円
つまりこのケースの通常の賃金は、4,000円を加算する必要があります。
平均賃金の場合
有給休暇中の賃金として平均賃金を支給する場合は、以下の方法で賃金を算出します(労働基準法第12条)。
平均賃金の計算方法については
平均賃金による場合は、支払う賃金を抑えられます。
しかし、計算が負担となりますし、従業員にとっては受け取る賃金が少なくなるため、モチベーションの低下を招きかねないことを理解しておきましょう。
健康保険法による標準報酬日額
有給休暇中の賃金として、標準報酬日額を支給する方法もあります。
標準報酬日額は、標準報酬月額÷30で算出されます(労働基準法施行規則第25条第3項)。
標準報酬月額とは、健康保険料の計算を簡易にするための仮の月給です。
標準報酬月額は、1等級の58000円~50等級の139万円までの全50等級に分けられます。
参考
令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)|全国健康保険協会
健康保険に加入している企業の場合、従業員の標準報酬月額を把握しているため、比較的計算は簡単ですが、計算の手間はあります。
また、この方法を使う場合は、労使協定の締結が必要となります。
時間単位年休の場合
時間単位で年次有給休暇を取得した場合、「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「健康保険法40条1項の標準報酬月額の30分の1 (標準報酬日額)相当額」のいずれかの金額を、その日の所定労働時間数(時間単位年休を取得した日の所定労働時間数)で除して得た金額を支払います。