在宅勤務規程の作り方について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく説明します。
在宅勤務とは
在宅勤務はテレワークの一形態
在宅勤務とは、所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。テレワークの一形態と整理されます。
テレワークには、本稿で開設する①在宅勤務、②サテライトオフィス勤務(所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方)、③モバイル勤務(移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方)があるとされています。
在宅勤務は、オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができワーク・ライフ・バランスに資するメリットがあります。
また、令和2年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大時に、職場の出勤率を低くすることが可能となり、通勤や職場内での感染リスクを抑え従業員の安全を守るというメリットがあるとして導入が拡大されました。また、オフィス賃料のコスト削減になるとして、企業の中には新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機にオフィス面積を削減する動きもみられました。
在宅勤務制度の導入方法
- 在宅勤務の対象となる業務、人員などの検討
- 在宅勤務制度の制度設計(問題点の検討)
- 在宅勤務規程などの作成
- 在宅勤務の実施
在宅勤務規程が必要な理由
通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じ場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。
しかし、テレワーク勤務特有の労働条件がある場合は、就業規則の変更、在宅勤務規程の新設が必要となります。
テレワーク規程の項目例
なお、就業規則を変更した場合には、従業員代表の意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届出するとともに、従業員に周知する必要があります。
在宅勤務規程のフォーマット
以下、厚生労働省が公表する「テレワーク モデル就業規則」をベースにして、在宅勤務規程の規定内容について説明していきます。
就業規則の委任規定
1 この規則は、○○株式会社の従業員に適用する。
2 パートタイム従業員の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。
4 従業員のテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めるところによる。
解説
テレワーク(在宅勤務等)について、既存の就業規則の中に条項を追加することも可能です。
しかし、規定する項目が多い場合は、就業規則とは別にテレワークに関する規程(在宅勤務規程等)を別規程として設けた方が見やすいことが多いです。
そこで、在宅勤務規程等を別規程として定める場合は、本体の就業規則に上記4項のように委任規定を設ける必要があります。
在宅勤務の定義
1 在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社指定の場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。
2 サテライトオフィス勤務とは、会社所有の所属事業場以外の会社専用施設(以下「専用型オフィス」という。)、又は、会社が契約(指定)している他会社所有の共用施設(以下「共用型オフィス」という。)において情報通信機器を利用した業務をいう。
3 モバイル勤務とは、在宅勤務及びサテライトオフィス勤務以外で、かつ、社外で情報通信機器を利用した業務をいう。
解説
在宅勤務の定義について、「自宅」のほかに、「その他自宅に準じる場所」を勤務場所としていますが、自宅に準じる場所とは、例えば、従業員が自宅以外の場所で親の介護などを行っている場合は、介護している親の家が考えられます。
在宅勤務の対象者
在宅勤務の対象者は、就業規則第○条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。
(1) 在宅勤務を希望する者
(2) 勤続1年以上の者でかつ自宅での業務が円滑に遂行できると認められる者
(3) 自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者
(4) 所属長の許可を得た者
解説
在宅勤務の対象者
在宅勤務の対象者の条件を設定します。
希望者
規定例では在宅勤務の対象者を全従業員としていますが、在宅勤務を適切に導入・実施するに当たっては、本人の意思も尊重することが重要ですので、1号において、本人の希望を要件としています。
個人の事情による限定
対象者をテレワーク導入目的が比較的明確である育児や介護が必要な者などに限定する場合は上記のような条件を追加します。
そのほかにも、通勤時間の長さで限定する場合もあります。
いきなり全従業員を対象とした在宅勤務の導入が難しいと考えている会社にとっては、その導入へのステップになります。
担当職務
対象者の担当職務に限定を加えることを明確にする場合は、上記のような条件を追加します。
出社して行うことが必要な職務の場合は在宅勤務等を認めることができないのは当然です。
また、具体的な職務が特定できる場合は、それを列挙する場合もあります。
在宅勤務で行うことができる職務の範囲は,次のとおりとするc
(1) 情報収集および資料・報告書の作成
(2) 企画書および見積書等の作成
(3) 原稿・論文の執筆編集および校正
(4) 翻訳
(5) 前各号のほか会社が認める業務
そのほかにも職位により限定する場合もあります。例えば、管理職だけに認めるなどです。
勤続年数と自立性
2号では、「勤続年数」と「対象者の自律性」を要件としています。勤続年数が短い従業員(例えば新入社員)は、会社での働き方のルール(服務規律や慣習)や仕事の進め方に関する理解が乏しく、自律して仕事を進めることができないといった考えから、一定の勤続年数を経た者を対象としています。
なお、会社の実情によって勤続年数を長くしたり短くすることもできますし、対象者の自律性には言及し
ないで勤続年数だけに限定することもできます。
在宅勤務の執務環境
また、適正な執務環境の確保も重要ですので、3号において、自宅の執務濃境、セキュリティ環境、家族の理解を最低限の基準としています。
在宅勤務の実施期間
1 在宅勤務期間は,原則として,在宅勤務開始日から1ヶ月以内とする。
2 前項の期間を超えて在宅勤務を希望する者は、在宅勤務期間満了予定日の1週間前までに所属長に在宅勤務期間の延長を申請して,許可を得ることとする。
3 在宅勤務者が次の各号のいずれかに該当したときは, 通常勤務に復帰しなければならない。
(1) 在宅勤務期間が満了したとき
(2) 在宅勤務期間満了前に本人から通常勤務への復帰申請があり、会社が認めたとき
(3) 在宅勤務の許可が取り消され、会社から通常勤務への復帰を命じられたとき
解説
在宅勤務の実施期間については,在宅勤務の趣旨・目的により,必要とされる期間が異なります。
ただ,会社の意向に反して長期化することがないように,一定の期間を定めて,それを超える場合には更新手続きをとることで会社が在宅勤務の実施期間をコントロールできるようにしておくことも一案です。
また,業務の遂行に問題が生じるなど,実施期間の途中で在宅勤務を中止させる必要が生じる可能性もありますので、会社の判断で許可を取り消し,通常勤務への復帰を命じることができる旨を定めておくことが重要です。
参考記事
在宅勤務の就業場所・出社命令
1 就業場所は, 原則として在宅勤務者の自宅とする。ただし, 在宅勤務の理由により,自宅以外の場所を就労場所とする必要がある場合は,在宅勤務許可申請書にその旨を記載し,会社の許可を得るものとする。
2 前項にかかわらず、面談での業務報告・打合せ、会議への出席、研修等のため、その他会社の業務上の都合により、会社が指示した日には、所属部署または指示した勤務場所に出勤しなければならない。
解説
在宅勤務時の就労場所を在宅勤務者の自宅に限定するか否かについては企業や対象者の職務などよって考え方が分かれるところです。
最近は,カフェや図書館などにパソコンや資料を持ち込んで仕事をする人が多く見受けられます。隙間時間の効率的利用、気分転換による集中力の向上、創作意欲の向上などというメリットがあるとも言われています。在宅勤務導入済みの企業の中にも,在宅勤務者に自宅以外の場所での就労を認めているところがあります。
しかし,公共の場でパソコンなどを使用して業務を行うことには,覗き見や盗み聞きなどによる情報漏えいのリスクを伴います。その他、移動時の事故が労災に該当する可能性もあります。在宅勤務は,あくまで自宅を就労場所として業務を行うことを認めるものです。在宅勤務と併せてモバイルワークやサテライトオフィス勤務の適用を認めている場合を除き在宅勤務者の就労場所は自宅に限定することが望ましいといえます。
ただ,介護を目的とした在宅勤務の場合は,要介護者が居住する場所で介護を行いながら仕事をする必要が生じることが想定されることから,そのような場合は,個別の許可により要介護者が居住する実家を就労場所と認めることで対応できるようにしておくとよいでしょう。
なお,在宅勤務者に自宅以外の場所で仕事をすることを認める場合は,情報漏えいのリスクをできるだけ減らすために, 自宅以外の場所で行うことができる業務の内容や業務遂行の方法について,事前にルールを定めておくことが望まれます。
また、在宅勤務期間中であっても、会社の業務上の都合により出社を命ずる必要が生ずる場合もあります。その場合に出社を命ずる根拠規定を設定します。
在宅勤務の利用申請
1 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。
2 会社は、業務上の事由その他裁量により、前項による在宅勤務の許可をいつでも取り消すことができる。
3 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ利用を届け出ること。
解説
申請
第1項は、事前の許可の期限と誰の許可が必要かを記載したものです。「1週間前」という期間は、あくまでも例示であって、「前日」、「2週間前」、「1か月前」などと会社の実情によって、期間を定めることができます。また、誰が許可を行うかについても、所属長でなく、会社の実情によって、許可を行う者を定めることができます。
申請に際して、証明書類の提出を求める場合は、以下のような規定を置くことがあります。
在宅勤務等の許可取り消し
第2項は、業務上の必要がある場合や労働者が在宅勤務に適さない勤務状況の場合(在宅勤務では生産性が落ちるなど)に、会社の裁量で在宅勤務の許可を取り消す権限を留保します。
在宅勤務の利用届出
第3項では、第2項により在宅勤務の許可を受けた者が、実際に在宅勤務を行う際には、事前に所属長へ届け出ることとしております。
規定例の「前日」についても会社の実情によって期間を定めることができますが、その期間を必要以上に長く設定することは在宅勤務の利用を防げる要因にもなり
かねませんので注意が必要です。
また、申請の方法については特に言及していませんが、「電子メール」、「利用申請書」などを加えることも考えられます。
会社都合による在宅勤務命令
以上は従業員が希望して申請することを前提としていますが、会社都合により在宅勤務を命ずる必要がある場合もあります。上記は、会社側の都合で在宅勤務を命ずる権限を定める場合の規定です。
在宅勤務時の服務規律
在宅勤務に従事する者(以下「在宅勤務者」という。)は就業規則第○条及びセキュリティガイドラインに定めるもののほか、次に定める事項を遵守しなければならない。
(1) 在宅勤務の際に所定の手続に従って持ち出した会社の情報及び作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
(2) 在宅勤務中は業務に専念すること。
(3) 第1号に定める情報及び成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理しなければならないこと。
(4) 在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行ってはならないこと。
(5) 在宅勤務の実施に当たっては、会社情報の取扱いに関し、セキュリティガイドライン及び関連規程類を遵守すること。
解説
規定例では、就業規則本文などに定められている遵守事項以外でテレワーク勤務に必要な服務規律を挙げています。
(1) 規定例の第1号は持ち出した情報の管理方法について定めていますが、親族であっても不用意に情報が目に触れることは望ましくないとする場合は、「従業員の親族を第三者とみなす」と規定することもできます。
(2) 規定例の第2号はテレワーク勤務時の職務専念義務について定めています。就業規則本文で、「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」と定めていますので十分とも考えられますが、あえてテレワーク勤務規程に掲げることにより、職務専念義務について注意喚起する効果が期待できます。
(3) 規定例の第4号は就業場所を自宅に限定していますが、例えば、「親の介護のために親の家で仕事をしたい」などという要望に応じる対応策としては、「会社が指定する場所」との規定を設ける方法があります。
(4) 規定例の第5号のテレワーク勤務に関しての情報セキュリティの対策や構築に関する詳細事項については「テレワークセキュリテイガイドライン」(総務省・平成25年3月)を参考にしてください。
セキュリテイガイドラインとは、オフィス外からのアクセスや電子メール送受信などに関する制限、顧客との打合せで発生するデータや端末の持ち出しの手続方法など、業務を行う上で通常順守すべきセキュリティの考え方をまとめたものであり、下記の3つの構成で作成されます。
内容は、企業ごとの企業理念、経営戦略、企業規模、保有する情報資産、業種・業態などにより異なるため、企業活動に合致した情報に係るガイドラインを定めることとなります。
● 基本方針:セキュリティ全体の根幹
● 対策基準:基本方針を下に実施すべきことや守るべきことを規定したもの
● 実施手順:対策基準の事項を具体的に実行するための手順を示したもの
在宅勤務時の労働時間
会社での勤務と同じ労働時間
1 在宅勤務時の労働時間については、就業規則第○条の定めるところによる。
2 前項にかかわらず、会社の承認を受けて始業時刻、終業時刻及び休憩時間の変更をすることができる。
3 前項の規定により所定労働時間が短くなる者の給与については、育児・介護休業規程第○条に規定する勤務短縮措置等の給与の取扱いに準じる。
解説
テレワーク勤務者も会社での勤務と同じ労働時間制とする場合は、テレワーク勤務だからといって労働時間の規定を変更する必要はありません。
規定例の第2項にある「始業時刻、終業時刻及び休憩時間の変更をする」とは、始業時間・終業時間・休憩時間の繰り上げ、繰り下げなどを行う規定です。いわゆる中抜けなどをする場合に規定します。
第2項による変更の結果、1日の所定労働時間を変更(短く)する場合は、第3項において所定労働時間を短くした場合の給与を「育児・介護休業規程」の短時間勤務措置の給与の取扱いに準じるとしています。
不就労時間の取扱い
1 在宅勤務者が前条に定める労働時間のうち、全部または一部について就労することができないときは、あらかじめ所属長に許可を得なければならない。ただし、緊急を要する場合等あらかじめ許可を得ることができないときは、事後速やかに報告するものとする。
2 所定労働時間のうち全部について労働できないときは欠勤として取り扱う。
3 前項までに定める不就労時間についてはノーワークノーペイの原則により給与を支給しない。不就労時間の賃金については賃金規程第○条の定めるところによって計算する。
事業場外みなし労働時間制
1 在宅勤務時の始業時刻、終業時刻及び休憩時間については、就業規則第○条の定めるところによる。
2 前項にかかわらず、在宅勤務を行う者が次の各号に該当する場合であって会社が必要と認めた場合は、就業規則第○条(事業場外みなし労働時間制)を適用し、第○条に定める所定労働時間の労働をしたものとみなす。この場合、労働条件通知書等の書面により明示する。
(1)従業員の自宅で業務に従事していること。
(2) 会社と在宅勤務者間の情報通信機器の接続は在宅勤務者に任せていること。
(3) 在宅勤務者の業務が常に所属長から随時指示命令を受けなければ遂行できない業務でないこと。
3 前項にかかわらず、就業規則第〇条(事業場外みなし労働時間制)の第2項又は第3項の規定に該当する者は、それぞれ各項に規定する時間労働したものとみなす。
第○条(事業場外みなし労働時間制)
1 労働時間の全部または一部について事業場外で業務を行った場合において,労働時間の算定が困難な場合は、第○条(労働時間)に定める所定労働時間を勤務したものとみなす。
2 前項の業務の遂行について, 必要とされる時間が第○条(労働時間)に定める所定労働時間を超えることが通常の場合は, 当該業務に通常必要な時間を勤務したものとみなす。
3 事業場外で行う業務について,あらかじめ,所定労働時間を超えて労働することが必要であるとして労使協定を締結した場合は,労使協定で定めた時間を勤務したものとみなす。
解説
規定例では、在宅勤務時においても日々の始業及び終業の時刻を把握した上での労働時間管理を原則としていますが、情報通信機器が常時通信可能な状態におかれていないこと、業務が使用者の随時具体的な指示に基づいて行われない場合に限って、みなし労働時間制が適用されることを明記しています。
参考記事
10分で分かる!在宅勤務制度の導入方法_事業場外みなし労働時間制
移動時間の取扱の明記
移動時間について、取扱を明記する場合は上記のような規定となります。
参考記事
フレックスタイム制
1 就業時間については,就業規則第○条(フレックスタイム制) を適用する。
2 前項の規定にかかわらず,就業規則第○条(フレックスタイム制)第○項に規定するフレキシブル・タイムおよびコア・タイムは,在宅勤務者には適用しないものとする。また,休憩時間の変更については,業務遂行上の必要により,弾力的に運用するものとする。
3 次の各号に規定する時間および日は,フレックスタイム制を適用しない。
(1) 午後10時から午前5時まで
(2) 祝休日,夏期休暇年末年始休暇
4 業務上の必要性により前項に規定する時間または日に勤務する必要があるときは,事前に所属長に届け出て,許可を受けなければならない。
在宅勤務時の休憩
在宅勤務者の休憩時間については、就業規則第○条の定めるところによる。
解説
在宅勤務者に対しても、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければなりません。
また、商業、保健衛生業など一定の事業(※)を除き、休憩は一斉に与えなければなりませんので、在宅勤務者の休憩時間帯は、所属事業場の休憩時間帯と合わせる必要がありますが、労使協定を締結すれば、一斉に与えないことが可能となりますので所属事業場の休憩時間帯と異なる時間帯とすることができます。
私用による中断を認め、その取扱を休憩時間とする場合は上記のような規定とします。
在宅勤務時の所定休日
在宅勤務者の休日については、就業規則第○条の定めるところによる。
解説
在宅勤務者に対しても原則として週1回以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。
規定例は、テレワーク勤務者の所定休日を就業規則本文どおりとしており、テレワーク実施企業で最も一般的な例といえます。
在宅勤務時の時間外労働等
1 在宅勤務者が時間外労働、休日労働及び深夜労働をする場合は所定の手続を経て所属長の許可を受けなければならない。
2 時間外及び休日労働について必要な事項は就業規則第○条の定めるところによる。
3 時間外、休日及び深夜の労働については、給与規程に基づき、時間外勤務手当、休日勤務手当及び深夜勤務手当を支給する。
解説
在宅勤務者について、時間外労働、休日労働及び深夜労働については所属長の許可制とする場合は、上記のように明記が必要です。
許可なく行われた時間外・休日・深夜労働については、労働時間として扱わないことを明記する場合は上記のような規定をします。
在宅勤務時の出退勤管理
在宅勤務者は就業規則第 条の規定にかかわらず、勤務の開始及び終了について次のいずれかの方法により報告しなければならない。
(1) 電話
(2) 電子メール
(3) 勤怠管理ツール
第○条(業務報告)
在宅勤務者は、定期的又は必要に応じて、電話又は電子メール等で所属長に対し、所要の業務報告をしなくてはならない。
第○条(在宅勤務時の連絡体制)
1 在宅勤務時における連絡体制は次のとおりとする。
(1) 事故・トラブル発生時には所属長に連絡すること。なお、所属長が不在時の場合は所属長が指名した代理の者に連絡すること。
(2) 前号の所属長又は代理の者に連絡がとれない場合は、〇〇課担当まで連絡すること。
(3) 社内における従業員への緊急連絡事項が生じた場合、在宅勤務者へは所属長が連絡をすること。なお、在宅勤務者は不測の事態が生じた場合に確実に連絡がとれる方法をあらかじめ所属長に連絡しておくこと。
(4) 情報通信機器に不具合が生じ、緊急を要する場合は〇〇課へ連絡をとり指示を受けること。なお、〇〇課へ連絡する暇がないときは会社と契約しているサポート会社へ連絡すること。いずれの場合においても事後速やかに所属長に報告すること。
(5) 前各号以外の緊急連絡の必要が生じた場合は、前各号に準じて判断し対応すること。
2 社内報、部署内回覧物であらかじめランク付けされた重要度に応じ至急でないものは在宅勤務者の個人メール箱に入れ、重要と思われるものは電子メール等で在宅勤務者へ連絡すること。なお、情報連絡の担当者はあらかじめ部署内で決めておくこと。
解説
在宅勤務と勤怠管理
テレワーク勤務時には、従業員が通常の勤務と異なる環境で就業することになるため、労働時間の管理方法や業務管理方法について確認し、ルールを決めておくことが必要です。
テレワーク勤務時の労務管理には、始業及び終業の時刻の記録・報告を行う勤怠管理、労働時間中のプレゼンス管理(在席管理)、業務遂行状況を把握する業務管理の観点があります。勤怠管理の方法の詳細については、20頁を参照してください。
①電子メール
テレワーク実施企業で、最も多く利用されています。使い慣れている、業務の報告を同時に行いやすい、担当部署も一括で記録を共有できるなどの特徴があります。
②電話
テレワーク実施企業で、電子メールに次いで利用されています。使い慣れている、時間がかからない、コミュニケーションの時間が取れるなどの特徴があります。
③勤怠管理ツール(始業及び終業の時刻などを管理することができるシステム)
勤怠管理ツールを利用することで、電子メールで通知しなくてもよい、管理者が大人数を管理しやすい、人事労務担当部署も記録を共有できるなどの特徴があります。業務中に常時通信可能な状態にする、個別に報告する手間がかからないなどの特徴があります。
参考記事
10分で分かる!在宅勤務制度の導入方法_在宅勤務と労働時間管理
在宅勤務と業務報告
在宅勤務者については、会社に出社する頻度が少ないことから日常の業務報告の方法についてあらかじめ決めておく必要があります。方法については会社の実情に即した方法としてください。
労働時間の把握方法の明記
連絡メールによる場合
労働時間の把握方法を明記し、トラブルにならないようにする場合は上記のような規定をします。
一定期日にまとめて報告させる場合
1 在宅勤務者は、毎日、勤務した日の始業・終業時刻、労働時間、休憩時間を所定の就業時間報告書に記入し、毎月○日(賃金計算の締切日)に所属長宛の電子メールにて報告するものとする。
2 在宅勤務者は、勤務した日および深夜労働および休日労働を所定の就業時間報告書に記入し、毎月○日(賃金計算の締切日)に所属長宛の電子メールにて報告するものとする。
在宅勤務時の賃金・費用負担・情報通信機器等の貸与
1 在宅勤務者の給与については、就業規則第○条の定めるところによる。
2 前項の規定にかかわらず、在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与支給日に支給するものとする。
第○条(費用の負担)
1 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4 その他の費用については在宅勤務者の負担とする。
第○条(情報通信機器・ソフトウェア等の貸与等)
1 会社は、在宅勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンタ等の情報通信機器、ソフトウェア及びこれらに類する物を貸与する。なお、当該パソコンに会社の許可を受けずにソフトウェアをインストールしてはならない。
2 会社は、在宅勤務者が所有する機器を利用させることができる。この場合、セキュリティガイドラインを満たした場合に限るものとし、費用については話し合いの上決定するものとする。
解説
在宅勤務時の賃金
勤務時間が短くなったなどの合理的な理由がないにもかかわらず、在宅勤務者だからといって基本給や諸手当を減額することはできませんが、通勤の頻度によって通勤手当を見直すことはあり得ます。
規定例は、終日在宅勤務の日数が一定の基準を超える場合は、定額の通勤手当を支給せず、打合せなどで事業場で勤務した日について、往復に要する通勤費用の実額を支給するケースです。なお、終日在宅勤務の日数を週単位ではなく、月単位とすることも考えられます。
参考記事
在宅勤務時の費用負担
在宅勤務に係る通信費や情報通信機器などの費用については、通常の勤務とは異なり、在宅勤務を行う者が負担することがあり得ます。労使のどちらが負担するか、また、会社が負担する場合における限度額、さらに従業員が請求する場合の請求方法などについては、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則などにおいて定めておくことが望ましいです。
特に、従業員に情報通信機器など、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないことに留意する必要があります。(労働基準法第89条第5号)
会社は在宅勤務にかかる通信費、電話代、水道光熱費を補助するため、1ヶ月の在宅勤務日数が○日以上の在宅勤務者に対して、在宅勤務手当を支給する。
会社は在宅勤務にかかる通信費、電話代、水道光熱費を補助するため、1ヶ月の在宅勤務日数が○日以上の在宅勤務者に対して、在宅勤務日数に応じた在宅勤務手当を支給する。
※「1ヶ月の在宅勤務日数が○日以上」としたのは、在宅勤務日数の少ない者には通勤手当を定期代として支払うことを前提としているため。
※ 在宅勤務手当は、1ヶ月につき3000円~10,000円程度とされています。
参考記事
在宅勤務時の機器類の貸与
規定例1項は、会社がパソコンを貸与する例ですが、会社が貸与するパソコンを利用する場合でも、在宅勤務者が会社が認めていないソフトウェアなどを勝手にインストールすることは、セキュリティなどの問題が生じることが懸念されるため、それを禁止しています。
規定例2項は、在宅勤務者所有のパソコンの利用を認める例ですが、自己所有のパソコンの場合には、家族の人が供用する可能性もあり、業務上の秘密事項などを守る上での問題や、ウイルスなどネットワークからの攻撃に対して防護が十分でないことも想定されます。
このため、在宅勤務者所有のパソコンを使わせる場合には、セキュリテイガイドラインを設けて、同ガイドラインを遵守させることにより、セキュリティの確保や、業務用データの秘匿性などが可能となります。
1 会社は、在宅勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンタ等の情報通信機器、ソフトウェア及びこれらに類する物を貸与する。
2 在宅勤務者は、前項の情報通信機器に、会社が承認した以外のソフトウェア・アプリケーションをインストールしてはならない。
3 在宅勤務者は、会社の事前の許可なく、自己が所有する私物の情報通信機器を業務に使用してはならない。
1 会社は、在宅勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンタ等の情報通信機器、ソフトウェア及びこれらに類する物を貸与する。
2 在宅勤務者は、自らが所有する情報通信機器(以下「私物の情報通信機器」という。)を業務に使用することを希望する場合は、所定の申請書に必要事項を記載の上、会社に申請しなければならない。会社の許可なく私物の情報通信機器を業務に使用してはならない。
3 会社は、前項の申請を受け、私物の情報通信機器の使用の可否を審査し、その結果を申請者に連絡する。
4 在宅勤務者は、会社の許可を得て私物の情報通信機器の業務に使用する場合は、別途定めるセキュリティガイドラインを遵守しなければならない。
5 在宅勤務者は、在宅勤務時に使用する情報通信機器に、会社が承認した以外のソフトウェア・アプリケーションをインストールしてはならない。
在宅勤務と労災
1 在宅勤務中に業務に起因する疾病または傷害(業務上災害)が発生したときは、すぐに所属長に連絡を取りその指示に従わなければならない。
2 在宅勤務者が、所属部署または会社が指示した勤務場所への出勤途上に災害に遭遇したときは通勤災害とする。
3 前2項の業務上災害および通勤災害については、就業規則第○章各条に定める規定を適用する。
在宅勤務と雇用契約書の記載
リモートワーク(在宅勤務)をする場合、自宅等が「就業場所」となります。
2024年4月1日から就業場所の変更の範囲を労働条件通知書に明示することが義務付けられます。
そのため、あらかじめ就業規則でテレワークについて規定されているなど、テレワークを行うことが通常想定されている場合は、就業場所としてテレワークを行う場所が含まれるように明示する必要があります。
「通常想定される」とは、明確な定義はないものの、
他方で、現場職のようにテレワークが現実的には想定されないような場合は記載は不要です(※2023年11月24日厚労省の担当部署に確認済み。)。
例 就業場所・業務に限定がない場合
就業場所
(雇入直後)本店及び労働者の自宅 | (変更の範囲)本店及び全ての支店、営業所、労働者の自宅での勤務 |
(雇入直後)福岡事務所及び労働者の自宅 | (変更の範囲)会社の定める場所( テレワークを行う場所を含む) |
例 完全に限定する場合(就業場所や業務の変更が想定されない場合)
就業場所
(雇入直後)品川オフィス及び「テレワーク規程」第5条に定める在宅勤務の就業場所 | (変更の範囲)品川オフィス及び「テレワーク規程」第5条に定める在宅勤務の就業場所 |
テレワーク就業規則
第4条テレワーク勤務とは、サテライトオフィス勤務及び在宅勤務をいう。
第5条在宅勤務とは、従業員の自宅又は自宅に準じる場所(会社が認めた場所に限る。)において情報通信機器を利用して業務を行うことをいう。
2024年4月からの労働条件通知書についてはこちら
2024年4月1日からの労働条件通知書の変更ポイント解説【書式・ひな形あり】